【2024年4月改正】職業安定法(職安法)とは?知っておくべき改正内容と罰則

職業安定法とは

私たちの日常生活には、多くの法律が関わっています。2024年4月に改正された職業安定法も、その1つです。刑法や民法と違いあまり聞いたことのない職業安定法ですが、働く権利に基づいた法律であり、我々には非常に重要な法律です。

本記事では職業安定法の具体的な内容・改正の押さえておくべきポイントに関して解説していきます。

職業安定法とは

職業安定法とは私たちの働く権利を守るために重要な法律であり、労働において重要な求人や、職業紹介に関して定められた法律です。職安法とも呼ばれます。

その目的として、職業安定法の第1条に以下のように記されています。

この法律は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)と相まつて、公共に奉仕する公共職業安定所その他の職業安定機関が関係行政庁又は関係団体の協力を得て職業紹介事業等を行うこと、職業安定機関以外の者の行う職業紹介事業等が労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整に果たすべき役割に鑑みその適正な運営を確保すること等により、各人にその有する能力に適合する職業に就く機会を与え、及び産業に必要な労働力を充足し、もつて職業の安定を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。引用元:e-GOV法令検索(職業安定法 第一条)

また、職業安定法第2条において、労働者は法律に違反することのない限り、自由に職業を選択する権利を持つと明記されており、近年ではブラック企業が問題視されているため、社員がより安全な職場を選ぶ上で、欠かせない法律です。

職業安定法が定められた背景

職業安定法元々職業安定法の前に、職業紹介法という職業の紹介に関する法律が戦前存在しました。

しかし職業紹介法というのは、1938年の国家総動員法制定によって職業の紹介という意味よりも、労務統制・労務動員の業務としての意味合いが強いものでした。そこで1947年11月、憲法の改正に伴う新業態に対応するために職業安定法が成立することになりました。

職業安定法で特に気を付けておくべき条項

職業安定法は、破ると罰則を受けることになる厳しい法律です。ここでは職業安定法の中で、特に気をつけておくべき条項に関して紹介します。

職業紹介をするためには許可・届出が必要

職業紹介事業者は、職業紹介をする上で厚生労働大臣の許可を受ける・または届出を行う必要があります。

そして申請する前に職業紹介事業者に関しては、「職業紹介責任者講習会」を受講する必要があります。この講習会は事業主管轄労働局による申請受理日の前、5年以内に限られます。

また酒類管理者や食品衛生管理者の資格のように、1回届出を行ったら完了というものではなく期間満了があり、満了後はまた厚生労働大臣に対して更新申請を行う必要があります。

個人情報について

職業安定法第5条の4では、求職者の個人情報の取り扱いについても述べています。

求職者の個人情報が雇い主の自由によって、雑に扱われてしまうと、求職者との信頼関係が成り立たなくなってしまいます。

そうならないように業務の目的達成のために必要な範囲のみで個人情報の取り扱いが認められています。例えば人種や社会的身分・家族の職業・人生観・支持政党といった情報は、業務の上で目的の範囲外に当たるとされ、収集すべきではないとされています。

労働条件の明記

職業安定法第5条では、「公共職業安定所及び職業紹介事業者、労働の募集を行うもの及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、労働者に対して業務内容や賃金、労働時間等の労働条件を明示しなければならない」と定めています。

特に働き方が多様化していく中で、労働者の労働に対する価値観も日々変化しています。そのような中で労働条件に関しては、今後より詳細に明示することが必要であるとされました。

手数料を取ることの禁止

  • 厚生労働省令であらかじめ手数料が定められている場合
  • 厚生労働大臣に届け出ている手数料の場合

以上に当てはまる場合を除き、職業紹介業者は求職者から、手数料を受け取ることは禁止されています。モデルや芸術家など一部例外はあるものの手数料を認められているケースは稀です。

2024年4月の法改正内容

2024年4月1日から、募集時等に明示すべき事項が追加されることになっており、労働条件明示のルールが改正されます。厚生労働省のページでは以下の通りに記載されています。

求人企業・職業紹介事業者等が労働者の募集を行う場合・職業紹介を行う場合等には、募集する労働者の労働条件を明示することが必要ですが、令和6年4月1日からは、新たに以下の事項についても明示することが必要となります。
1 従事すべき業務の変更の範囲
2 就業の場所の変更の範囲
3 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)

※ 「変更の範囲」とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲のことをいいます。 引用:厚生労働省

最低限明示しなければならない労働条件の追加明示事項

最低限明示しなければならない労働条件として、赤枠で囲まれた箇所が、2024年4月の改正で追加される明示事項となっています。

業務内容の箇所・・・「1 従事すべき業務の変更の範囲」
就業場所の箇所・・・「2 就業の場所の変更の範囲」
契約期間の箇所・・・「3 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)」

そして、募集広告などの労働者の募集に関する情報を提供する場合は、掲載した時点を明示するなど、正確かつ最新の内容に保つ義務があるとしています。

最低限明示しなければならない労働条件

画像引用:厚生労働省「求人企業のみなさま」リーフレット

明示事項の記載例

次に明示事項の記入例をみていきましょう。

従事すべき業務の変更の範囲・就業の場所の変更の範囲 記載例

業務内容・就業場所の変更の範囲については、以下のように明示事項の記入例を厚生労働省のリーフレットで紹介しています。

明示事項の記載例

画像引用:厚生労働省「求人企業の皆さま」リーフレット

また注意点として以下のことも明記されています。

いわゆる在籍出向を命じることがある場合で、出向先での就業場所や業務が出向元の会社の変更の範囲を超える場合には、その旨を明示するようにしてください。引用:厚生労働省「求人企業の皆さま」リーフレット

有期契約を更新する場合の基準 記載例

有期契約を更新する場合の基準

画像引用:厚生労働省「求人企業の皆さま」リーフレット

※ 「諸般の事情を総合的に考慮したうえで判断する」というような抽象的なものではなく、「勤務成績、態度により判断する」、「会社の経営状況により判断する」など、具体的に記載いただくことが望ましいです。引用:厚生労働省「求人企業の皆さま」リーフレット

明示が必要となるタイミング

法改正により、何を追加で記載すべきか理解したところで、必要なタイミングで行わなければ意味がありません。厚生労働省が「参考」として提示している必要なタイミングを把握しておく必要があります。

・ ハローワーク等への求人の申込みや自社ホームページでの募集、求人広告の掲載を行う場合は、求人票や募集要項において、少なくとも前述のような労働条件を明示しなければなりません。

・ただし求人広告のスペースが足りない等、やむを得ない場合には「詳細は面談時にお伝えします」などと付した上で、労働条件の一部を別途のタイミングで明示することも可能です。この場合、原則、面接などで求職者と最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する必要があります。

・また、面接等の過程で当初明示した労働条件が変更となる場合は、その変更内容を明示する必要があります。この明示は速やかに行ってください。

・労働契約締結時には労働基準法に基づき、労働条件通知書等により労働条件を明示することが必要です。ここでの明示についても、今回の職業安定法施行規則の改正と同様の改正が行われており、2024年4月1日以降、明示しなければならない労働条件が追加されます。

引用:厚生労働省「求人企業の皆さま」リーフレット

これまでの法改正内容

2018年に法改正された内容

1947年より運用されている職業安定法ですが、環境の変化とともに何度か法改正されています。ここではなぜ法改正されたのか、追加・改正された項目に関して紹介します。

なぜ法改正されたのか?

職業安定法が改正された理由は、2点あります。

多様化する働き方

1点目は、多様化する働き方です。職業安定法が最初に制定された1947年頃では、1つの会社に勤め続けるなど働き方が統一されている部分が強くありました。

そのため一昔前では転職回数が多いと就活で不利になっていたものの、現代ではスキル重視の採用活動が主流になりつつあります。加えて現在は副業をはじめ、働き方は多様化してきており、既存の職業安定法の内容だけでは足りなくなってきています。

求人詐欺の横行

2点目は、求人詐欺の横行です。例えば求人の際には、「週2日休み・残業なし」と書いてあったのに実際に入ってみると、残業が異常にあるなど、求人詐欺が横行するようになってきました。少子高齢化が止まらない現代では労働人口の減少に伴い、求人詐欺をしなければ人材を採用できないと考えている企業も多いです。

結果的に1つの企業が求人詐欺を行い良い条件を示すことで応募が集中し、自社に応募を集めたい他の企業がまた求人詐欺を行うスパイラルにも繋がっています。

このようなことが頻発して起こってしまうと、求職者は警戒して中長期的にみると募集者・求職者双方が不利益を被ることになってしまいます。

過去に追加・改正された項目

これまでに追加・改正された項目について紹介していきます。

2022年改正の内容

2022年(令和4年)10月には、求職者が安心して求職活動を行うことができる環境の整備とマッチング機能の質の向上を目的として、以下の3つのことが改正されています。

  1. 「求人等に関する情報の的確な表示の義務化」
  2. 「個人情報の取扱いに関するルールの整備」
  3. 「求人メディア等に関する届出制の創設」

求人等に関する情報の的確な表示の義務化

各事業者に対して、求人等に関して次の5つの情報すべての的確な表示が義務付けられます。

1、求人情報 2、求職者情報 3、求人企業に関する情報 4、自社に関する情報 5、事業の実績に関する情報

また、求人企業の義務として虚偽の表示・誤解を生じさせる表示をすることは禁止され、また、以下の措置を行うなど、求人情報を正確・最新の内容に保たなければならないこととなっています。

●募集を終了・内容変更したら、速やかに求人情報の提供を終了・内容を変更する。
●求人メディア等の募集情報等提供事業者を活用している場合は、募集の終了や内容変更を反映するよう依頼する。
●いつの時点の求人情報かを明らかにする。
●求人メディア等の募集情報等提供事業者から、求人情報の訂正・変更を依頼された場合には、速やかに対応する。

引用:厚生労働省「2022(令和4)年1 0月1日施行職業安定法 改正のポイント」

個人情報の取扱いに関するルールの整備

企業が応募者の個人情報を得る際には、個人情報を収集・使用・保管する業務の目的を具体的に理解しやすい表現でウェブサイトに掲載するなどして、明示しなければならなくなりました。以下、厚生労働省は記載の例を参考にしてみてください。

個人情報の取扱いに関するルールが新しくなります

画像引用:厚生労働省「2022(令和4)年1 0月1日施行職業安定法 改正のポイント」

求人メディア等に関する届出制の創設

従来の求人メディア・求人情報誌だけでなく、インターネット上の公開情報等から収集(クローリング)した求人情報・求職者情報を提供するサービス等を行う事業者も職業安定法の「募集情報等提供事業者」になりました。引用:厚生労働省「2022(令和4)年1 0月1日施行職業安定法 改正のポイント」

求人メディア等について届出制が創設されます

画像引用:厚生労働省「2022(令和4)年1 0月1日施行職業安定法 改正のポイント」

2018年改正の内容

2018年(平成30年)には、主に以下の内容が改正されています。

労働条件の明示が必要な時点(タイミング)の変更

労働条件に変更があった場合はその確定後可能な限り速やかに明示しなければならないとされています。

最低限明示しなければならない労働条件の追加・明確化

2018年の改正内容

画像引用:厚生労働省「労働者を募集する企業の皆様へ」

試用期間の有無及び期間

基本的に試用期間は、本採用と比較しても労働条件が悪いものです。労働者にとっては非常に不安な状態で勤務することになります。そのため、企業は「試用期間〇〇ヶ月」といったように試用期間に関しても期間と本採用への条件を明記することが必要です。

募集者の氏名または名称

労働条件を明示する場合、必ず募集者の氏名を記載することが必要です。募集者を明確にすることで、応募者の不安を取り除き安心させることに繋がります。

派遣労働者の募集

派遣労働者を雇う場合には「派遣労働者として雇用する」旨の記載が必要になります。労働者が「正社員のつもりで勤務していたのに実際は派遣労働として勤務させられていた」といったトラブルを避けるためです。

裁量労働制の場合

裁量労働制とは労働時間を実労働時間ではなく、一定の時間とみなす制度のことです。裁量労働制をとる際には必ず、「裁量労働制」の記載を行う必要があります。後々残業代の件でトラブルになることを避けるためです。

固定残業代制の場合

固定残業代に関しても裁量労働制の時と同様、残業代関連のトラブルを避けるために必ず詳細を明記しておく必要があります。特に最近だと固定残業代制度を取り入れているものの、超過分を支払わない企業も増えています。そのため支払いは勿論、詳細を忘れずに記載するようにして下さい。

法律違反をした場合に罰則はあるのか

罰則

職業安定法を違反した場合、項目に応じて罰則があります。その罰則は決して軽くはありません。

実際に「知らなかった」ということにならないように、事前にどうしたら罰則があるのか確認しておくことが重要です。

  • 1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金
  • 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
  • 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 30万円以下の罰金

上記の4つが、法律違反をした際の罰則に当たります。特に暴行や脅迫・公衆衛生上有害な業務につかせるようなことをした場合には思い罰則が下されることになります。

企業として注意しておくべきポイントは?

職業安定法が改正されたことにより、企業として注意しておくべきポイントを整理しておきましょう。主なポイントは提示しなければいけない労働条件漏らさないことと、変更を明示することです。

労働条件を漏らさない

1つ目は、「最低限提示しなくてはならない労働条件を漏らさないこと」です。

  • 業務内容
  • 契約期間
  • 試用期間
  • 就業場所
  • 就業時間
  • 休憩時間
  • 休日
  • 時間外労働の有無および時間
  • 賃金(臨時に支払われる賃金や賞与などを除く)
  • 健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の適用の有無
  • 募集者の氏名または名称
  • 就業場所における受動喫煙防止措置の状況

前述したように、これらの項目は最低限求職者に提示すべき項目であり、仮に提示しなかった場合罰則などのトラブルを招いてしまうことになります。上記の項目はいずれも求人を行う際に求職者も把握したいものです。

そのため例え自社が公開したくない条件も、正確に提示しなければなりません。

労働条件の変更を明示する

2つ目は、「労働条件が変更された場合、速やかに明示すること」です。

労働条件を変更することは稀にあります。しかし募集要項を放置して、そのまま古い労働条件で進めてしまうと古い労働条件を信じて応募してきた求職者とトラブルに発展する可能性があります。

変更前の労働条件の方が良く、変更後に条件を開示したくないこともあるでしょう。しかし正確でない労働条件で採用を行ったとしても、入社後に社員がミスマッチを感じます。結果的に職業安定法に違反することに加え、採用自体も結果的にはうまくいきません。

まとめ

職業安定法とは私たちの働く権利を守るために重要な法律です。

常に同じ状態ではなく、働き方の多様化など変化に応じて法律も改正されております。職業安定法には違反をした際には罰則が設けられており、脅迫や有害な職場環境で業務させるなどを行なった場合にはより重くなっています。

そのため企業としては職業安定法で定められている内容に基づいて、募集等の活動をすることが重要です。

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