企業の人材育成のためには、効果的なフィードバックを行う必要があります。
中でも組織の活性化に有効な手法として注目されているのが「ポジティブフィードバック」です。しかし、どのように自社に取り入れれば良いのか悩む人事担当者や管理職の方もいるでしょう。
この記事では、ポジティブフィードバックを取り入れるメリットやポイント、ポジティブフィードバックに有効なフレームワークについても解説します。
フィードバックの目的
フィードバックは、定めていた目標に向けてとった相手の行動に対して、文章や口頭で指摘することを指した言葉です。組織の中では上司から部下へ行われることが多く、部下の成長を促すことを目的として実施されます。
また、次回からのパフォーマンス向上に期待ができるフィードバックには、主にポジティブとネガティブの2つがあり、それぞれの効果は異なります。
ポジティブフィードバックとは?
ポジティブフィードバックとは、対象者となる社員の行動に対して、良い面をピックアップして評価するフィードバックの手法です。業務中に見られる社員の言動や振る舞いなどから素晴らしい部分を見つけ出し、前向きな言葉で表現して評価点を伝えていきます。
ポジティブな評価内容なので、フィードバックを受けた社員は、次回の業務を高いモチベーションで遂行できるようになります。社員の自発的な成長を促す効果を期待できるでしょう。
ポジティブフィードバックとは対照的な手法として、ネガティブフィードバックがあります。
相手の良い面に着目するポジティブフィードバックとは違い、ネガティブフィードバックは相手の改善すべき点を指摘して評価する手法です。どちらもマネジメントの目的により適切に使い分ける必要があるでしょう。
ポジティブフィードバックを企業に取り入れるメリット
ここでは、ポジティブフィードバックを企業に取り入れるメリットについて、解説していきます。
社員のやる気を引き出せる
ポジティブフィードバックは、社員のやる気を引き出すのにとても効果的です。
部下は上司から期待されていると自覚すると、期待に応えようと仕事に対して意欲的な姿勢を示すようになります。「もっと成長したい」という気持ちが向上することで、自分の仕事に対する関心や探究心も強くなるでしょう。
その結果、仕事への熱意をいつも以上に見せる可能性があります。ポジティブな言葉がけを多くされることで、社員の仕事へのモチベーションが高くなるのも、ポジティブフィードバックのメリットでしょう。
社員の強みを伸ばすことができる
ポジティブフィードバックは、相手の良い面や得意とする部分に注目して指摘するので、社員は自分の強みや能力を知ることができます。
ポジティブフィードバックによって、自分では気づかなかった強みや能力を客観的に指摘してもらい知ることで、得意分野を伸ばし成長するきっかけにもなるでしょう。
社員の自信がアップして自発的に動けるようになる
相手の行動に対して良い部分を取り上げて評価するポジティブフィードバックは、社員の達成感や自己効力感を高めて社員自身の言動への自信に繋げる効果があります。
仕事に対する自信がつくと、物事を自分で考えて判断でき自発的に動ける人材に成長することが期待できるでしょう。
良好な関係を築ける
ポジティブフィードバックを定期的に取り入れることで、上司と部下との会話が増えコミュニケーションも自然にとれるようになります。
それにより、良好な人間関係の構築に繋がり、さらには部署やチームといった全体の雰囲気が良くなる効果も見込めるでしょう。また、ポジティブフィードバックを受ける社員としては、自分の良い部分を中心に話をしてもらえるため、自分のことを「分かってくれている」と安心感や信頼感が高まります。
上司が部下のことをしっかり見ていると伝える意味でも、定期的なポジティブフィードバックは必要でしょう。
ポジティブフィードバックに効果的なフレームワーク
フィードバックには、いくつかのフレームワークがあります。
ポジティブフィードバックを取り入れるのに、対象者となる社員や目的に合わせて使い分けられるよう、どのようなフレームワークがあるのか知っておくと良いでしょう。ここでは、5つを紹介します。
サンドイッチ型
サンドイッチ型は、「ポジティブ」「ネガティブ」「ポジティブ」といった順でフィードバックを行う方法です。ポジティブな内容でネガティブな内容を挟み込んで伝えるので、サンドイッチ型といわれています。
前向きな話で始まり前向きな話で終わるため、相手のモチベーションが下がりにくい点が、サンドイッチ型のメリットでしょう。ただし、改善してほしいネガティブな内容が、ポジティブな部分に埋もれてしまう場合があるので注意が必要です。
ペンドルトン型
ペンドルトン型は、心理学者のペンドルトン氏によって提唱されたフィードバックの方法です。
ペンドルトン型を取り入れると、自分で考えて行動にうつせる人材の育成ができます。
「確認」「良かった点」「改善点」「行動計画」「まとめ」の5つのステップで会話を進めていくのが基本です。デメリットとしては、社員が改善点や解決法を考えるのに時間がかかる場合がある点が挙げられます。
SBI型
SBI型は順序立ててフィードバックを行う方法で、Situation(状況)・Behavior(行動)・Impact(結果)の頭文字をとったものです。
「いつ、どこで、どうなった」という内容が明確になっているため、部下にとって分かりやすく納得できるフィードバックを行えます。SBI型はポジティブ・ネガティブどちらのフィードバックにも活用できます。
KPT型
KPT型はKeep(継続)・Problem(問題)・Try(挑戦)の頭文字をとった型で、対象者の意見を聞きながら進めていくフィードバックの方法です。
上司と部下が、それぞれの意見を書き出しながら進めていきます。Keep=今後も継続すべき点、Problem=今後はやめるべき点を可視化して行動を振り返ります。
そのため、これからTry=今後実施すべき行動が明確になり、部下がスムーズに行動できるようになるのです。ただし、Problem(問題点)ばかり挙げてしまい、Keep(継続すべき点)への着目が疎かになる可能性があるので注意が必要でしょう。
FEED型
FEED型はFact(事実)・Example(例)・Effect(影響)・Different(代替案)の頭文字をとった、フレームワークの中で最も基本的な型といえます。
まず、相手の行動について事実を述べて、なぜその行動を事例として取り上げたのか理由も伝えます。そして、相手の行動によりどのような良い影響があったのかを伝え、最後に代替案として他にとることのできる行動について示していくのです。
フィードバックの方法に迷った時は、まずFEED型を試してみると良いでしょう。
ポジティブフィードバックの例文
ここでは、実際にフィードバックを行う上でどのように伝えれば良いのか、ネガティブフィードバックと比較して例文を挙げてみましょう。会社で行うミーティングの評価のケースを挙げます。
ポジティブフィードバックの場合
といった内容で、ポジティブな言葉がけで評価します。
ネガティブフィードバックの場合
のように具体的に良くない点を指摘していきます。
同じような内容でもポジティブフィードバックとネガティブフィードバックとでは、視点が大きく異なります。
ポジティブフィードバックを行う時のポイント
ポジティブフィードバックを行う時のポイントについて解説します。
1対1で行うようにする
ポジティブフィードバックを大勢の前で行うのは、褒められた社員が手本となることで他の社員も学ぶことができ、組織風土が良くなる効果を期待できます。
しかし、社員のタイプによっては他の社員の前で行うことで、萎縮してしまうケースも考えられます。そのため、1対1でフィードバックができる環境を作るようにするのが良いでしょう。
アイメッセージを意識した言い方にする
物事を伝える時に言い切るかたちにしてしまうと、相手によっては命令されたと感じる場合もあります。
例えば、必要資料を揃えてほしい時に「○日までに資料を用意してください」というような場面は上司と部下の間ではよくありますが、相手の都合を考えていない指示です。
アイメッセージという自分を主体にした伝え方に変えると「○日までに資料を用意してもらえると助かります」となります。同じ内容でもアイメッセージを活用して伝えるだけで、相手は命令や指示と受け取ることなく、自発的に行動してくれるようになります。
承認と改善点のメッセージの割合を意識する
部下へ行うフィードバックの内容のうち、承認と改善点のメッセージの割合を意識することが大切です。
相手を肯定して認めているというメッセージを伝えるのがポジティブフィードバックですが、部下の成長のためには良い部分だけでなく、今後どうすれば良いのか改善点を伝えることも必要です。
フィードバックを行う中で全体の8割がポジティブな内容で、残りの2割で改善点を伝えるのが良い結果を発揮しやすいとされています。
未来志向で話すようにする
上司が行うポジティブフィードバックは、部下が前向きに取り組めるよう未来思考で話すようにすることも大切です。フィードバックは、過去の振り返りをして今後に活かすために行うものです。
できなかった点や不足していた点ばかりに焦点を当てて指摘してしまうと、部下の成長に効果的とはいえません。部下が自信を失ってしまうことも考えられるので、前向きな気持ちで取り組めるように、上司は未来思考で話すことを意識すると良いでしょう。
褒めすぎないようにする
基本的には褒めることがポジディブフィードバックでは重要な点になります。しかし、仕事内容や本人に関係のない内容など、手当たり次第に褒めることはおすすめできません。
ただ漠然と相手のことを褒めるのではなく、部下への成長を考えた強みや克服点について言及するようにしましょう。
時間を空けずに伝える
ポジティブフィードバックは、できるだけ早く行うことを意識しましょう。時間が空けば空くほど対象者は、その時の状況の記憶が薄れていきます。はっきり覚えていない事柄について、後から一生懸命話をされたとしてもイメージできないので、フィードバックの効果が下がってしまいます。
忙しい時はフィードバックが後回しになりがちですが、基本的には早い段階で時間を空けずに行うようにしましょう。
まとめ
ポジティブフィードバックを取り入れるメリットやポイントなどについて解説しました。評価を受けた社員だけでなく、組織全体の成長にも繋がる効果的なフィードバックの手法がポジティブフィードバックです。
ポジティブフィードバックがもたらすメリットを意識しながら、企業へ取り入れることを検討してみてはいかがでしょう。
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