360度評価(多面評価)とは?メリットや導入のポイントを解説

360度評価とは

人事評価や人材育成にはさまざまな方法があります。そのなかでも従来の上司や管理職から部下へ評価を行う方法は、一面的で評価対象者からの納得を得られず、課題の改善につながらないということもあるのではないでしょうか。

評価対象者に関係する複数の社員が評価を行い、より客観的で公正な評価結果が期待できるのが「360度評価(多面評価)」です。

この記事ではそんな360度評価について詳しく解説していきます。メリット・デメリットや導入する際のポイントもまとめているので、導入を検討している方は、この記事を参考に成功のヒントにしてみてください。

360度評価(多面評価)とは?導入の目的

360度評価とは、冒頭でもお伝えのとおり、1人の評価対象者に対して複数人で評価を行い、より公平的な評価をする制度のことで、多面評価とも呼ばれています。

その360度評価を導入する目的のひとつは、ずばり評価の公正化です。

360度評価では、従来の管理職からの評価だけでは得られなかった多面的で公平な評価が得られるため、評価対象者に評価結果を納得してもらいやすいという特徴があります。人事担当者にとっても、多角的な評価のデータを得られるため、評価対象者をより深く理解でき、その人の特性や改善点が分かりやすくなります。

また、評価を通して自身の仕事に対しての強み・弱みを認識できるため、人材育成にも効果的です。評価を通して本人にフィードバックを行うことも目的のひとつであるため、360度評価によって上司と部下のコミュニケーションが活性化し、説得力のある課題共有によって、改善に向けて行動がしやすくなります。

360度評価の導入状況

2020年、リクルートマネジメントソリューションズが企業の人事担当者600名を対象に行ったリサーチによると、360度評価を導入している日本企業は31.4%。2018年時点の11.8%から2倍以上に増え、360度評価への関心が高まってきていると言えます。

360度評価導入率

画像引用:リクルートマネジメントソリューションズ「360度評価活用における実態調査」

近年のコロナ禍におけるテレワークやフリーアドレスとなったオフィスでの働き方の変化によって、上司から現場が把握しづらくなっているため、360度評価を導入する企業が増えてきているのではと考えられています。

360度評価を導入するメリット

ここからは360度評価を導入するメリットを見ていきましょう。

【対象者】自己理解によって主体的に改善できる

従来の評価方法では、上司のみが評価した結果に対して不信感があると、評価自体に納得することができず、フィードバックされた課題が改善されない傾向がありました。

一方で、360度評価では、評価対象者の周りの人からの評価だけではなく、評価対象者本人も自分に対する評価を行うため、自己評価と他者評価を比べて客観性を高めることが可能です。それによって、評価対象者自身も納得しやすく、自身で気づけなかった課題を見出すことができるため、自分の行動を振り返って主体的に改善する姿勢が期待できます。

【対象者】会社に求められている行動がわかる

従来の評価制度は評価を行う上司の主観が入りがちであったため、たとえ会社に求められている姿勢と異なっていても、上司の評価さえ良ければ昇給や昇進に結びついてしまうという問題がありました。

その点、360度評価は同僚や部下、他の部署の社員や顧客など評価対象者にかかわる多様な立場の人からも評価をされるため、上司に対してだけではなく、部下に対しては良い上司として、顧客に対しては良い受注者としての仕事を果たさないと総合的に良い評価につながりません。そのため、会社に求められている行動を意識して、常に良い仕事をするという規範的な行動が導かれます。

【管理職】自らの評価を確認できる

従来の評価方法では評価者であった管理職も、360度評価によって自己評価や他者評価を行うことで、自身の行動を客観的に振り返るきっかけになります。自身への信頼度や今まで気がつかなかった部下の不満も可視化できるため、それをもとに改善を試みることで上司と部下の信頼関係の向上につながるでしょう。

【人事】フィードバックがしやすい文化ができる

360度評価は本人にフィードバックを行うことが前提です。評価後にフィードバックの場を設けることでコミュニケーションが活性化され、お互いに評価しあいフィードバックしやすい文化につながります。

円滑なコミュニケーションができる良好な信頼関係が成り立っていれば、社内での情報共有や協働しやすい環境が生まれて、生産性向上も期待できます。

【人事】社員の人間関係を把握できる

360度評価は評価対象者の周りの人物から評価を集めることができるので、その人を取り巻く人間関係を把握することも可能です。

たとえば、ひとりだけ不当に低い評価がつけられていたり、結託したような評価が見られたりする場合はいじめやパワハラといった人間関係の問題が生じている可能性もあります。

人間関係の問題は、気づけないまま放置していると、後に大きな問題に発展してしまう恐れもあるため、360度評価によって社内における人間関係を可視化できることは、人事にとってもメリットのひとつと言えるでしょう。

360度評価を導入するデメリット

良いことばかりにも思える360度評価ですが、やはりデメリットもあります。360度評価の導入を失敗に終わらせないためにも、その点に留意しておくことが必要です。

主観的な評価に偏りやすい

客観的に評価できることがメリットでもある360度評価は、その評価者の数によって客観性が生まれているといっても過言ではありません。ただし、評価をすることに慣れていない場合は、どうしても業務とは関係のない主観や好みに影響された評価をしてしまいがちです。

360度評価を導入する場合には、評価者に対して事前に評価の目的や評価方法などのレクチャーを行い、評価スキルを高めておくことによって、より公正な評価が可能になります。

また、あらかじめ評価項目をテンプレート化しておいたり、例文を用意したりすると、どのように評価したらよいのか、さらにイメージがつかみやすくなるでしょう。

評価に馴れ合いが生まれてしまう

同僚や同期など普段仲が良い相手の評価では、お互いが示し合わせて甘い評価をつけるなど、ひいきが生まれる可能性もあります。

反対に、「あの人からマイナス評価をつけられたから今回は自分がマイナス評価をしてやろう」といった仕返し評価もあるでしょう。どうしても近い関係性の同僚や同期だからこそ、感情や思惑が評価に影響してしまうものです。

そのような点も考慮して、360度評価の導入前には正しい評価方法の周知を徹底し、評価の匿名性を高める必要があります。

評価を気にしすぎて部下への指導が甘くなる

従来の評価方法と異なり、部下から上司を評価する場合もある360度評価では、上司への評価結果にも課題があります。

大抵の場合、部下には上司の仕事内容は見えにくく、上司の印象が評価に影響してしまいます。叱られることに慣れていない部下にとって、厳しい指導をする上司は印象が悪くなりがちです。

たとえ、上司が部下の成長のために厳しく指導していたとしても、低評価をつけてしまうという恐れもあります。そのことを上司が気にしてしまうと、自衛のために部下の指導が甘くなるというデメリットも生まれてしまうでしょう。

360度評価導入の3つのポイント

このようなメリット、デメリットをふまえ、360度評価を導入・運用するときに気をつけておきたいポイントをご紹介します。

実施目的を明確に共有する

360度評価は従来の評価方法と大きく異なるため、いきなり導入してしまうと戸惑ってしまう従業員も多いでしょう。そのため、新しい評価方法を取り入れる前に、導入する背景や目的、具体的な評価項目や評価基準など、詳細をしっかりと共有するための研修を行うのがベターです。

あらかじめ360度評価への理解を促すことで、主観ではない正しい基準で効果的な評価を行うことができます。

評価品質を考慮

360度評価では、上司だけではなくすべての従業員が評価を行う機会があるため、全従業員が適切な評価スキルを身につけておくことが必要です。親しい仲での馴れ合い評価を生まず公平に評価するためには、評価者の選定に十分注意し、評価を匿名にするという方法も有効です。

評価方法においては、設問の項目や評価者を増やすことで客観性がより高まり、信頼度が上がる傾向にありますが、増やしすぎると時間やコストがかかってしまうため、適切なバランスにすると良いでしょう。

このように、評価をいかに公正に行うことができるか、評価の品質に考慮して導入することが重要です。

費用対効果は長期視点で

360度評価を取り入れてすぐに効果が出るというわけではありません。360度評価の導入コストに対する費用対効果を短期的に見てしまうと効果が見えにくいため、経営陣や現場の理解を得られず、結果的に続けられなくなる恐れがあります。

しかし、360度評価は継続していくことが重要です。

とくに、360度評価を通して人材を育成していく目的なのであれば、途中で辞めてしまうとフィードバックに対する改善の結果が得られません。そのためにも、あらかじめ長期的な目で見ていく必要性を共有して、負担なく継続できるような体制を整えていくことが必要です。

長期的な視点で見れば、評価対象者個人の評価から組織としての重要な課題が見つかることも考えられます。そうなれば、360度評価に新たな意味を見出せるでしょう。

360度評価導入事例

ここからは実際に360度評価の導入事例をご紹介します。

アイリスオーヤマ株式会社

アイリスオーヤマアイリスオーヤマ株式会社では、人事に関する5つのミッションのひとつを「横断的かつ公正な評価」としています。しかし、360度評価導入前までは評価者の間で偏りや差が生まれ、評価結果を人材育成に活かせていないという課題がありました。

そこで、2003年に本人が納得でき、自身の強みや弱みに気づき、成長につなげることのできる評価を目指して360度評価を導入しました。

評価項目は主任以上の幹部社員用と一般社員用の2種類用意して、あらかじめ決められた分野について6段階で評価を行います。評価結果は報酬や昇給ではなく、評価結果をもとに上司がコミュニケーションを取るという方法で、おもに人材育成に活用されています。

高梁市役所

高梁市役所岡山県高梁市役所では、管理職育成と従来の人事評価制度の補完のために360度評価を導入しました。

部下職員からのアンケートで「一方的な評価ではなく上司を評価する機会も必要だ」という声があがったため、管理職も自身のマネジメントを省みるきっかけにできればという目的もありました。

360度評価を導入するにあたり、職員の不安を払拭するために、概要資料や結果シートのサンプルを掲示したり、サポート動画を共有したりするなど、1週間の事前周知期間を設け、十分に周知を行った上で新しい評価をスタート。

導入後のアンケートでは、8割以上の職員が「普通」から「満足」と回答しました。評価対象者であった管理職からは、部下からの客観的な評価を通して自身のマネジメントの改善点に気づくきっかけになったという声が聞かれたといいます。

住友林業株式会社

住友林業住友林業株式会社では管理職が評価結果を通して、自らの強み・弱みを認識し行動改善につなげ、マネジメント能力を向上させることを目的として360度評価を導入しました。

上司だけではなく同僚や後輩、部下から評価を実施し、自己評価と他者評価の差を評価結果としてフィードバックすることによって、管理職に気づきを与えることが可能になりました。

一方で、その後のフォローについては課題が残るとして、フィードバックの解説書を配布したり、評価結果を正しく読み解くための研修を評価対象者に行ったりする取り組みを進めています。

まとめ

360度評価は従来の一面的な評価ではなく、評価対象者をとりまく多面的な評価が可能になるため、より公正な評価結果が期待できます。しかしながら、評価者の主観も入りやすいため、あらかじめ導入の目的を共有し、より正しい評価につなげる努力が必要です。

自社にとってどのように導入するのが現実的か、導入する場合はどのように目的の共有を進めていくのか、フィードバックはどのように行うのかなど、長い目で見て検討してみるとよいでしょう。

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