採用活動をする際に意識しておきたい有効求人倍率とは、何を表しているのでしょうか?有効求人倍率の見方を知ることで、景気や求人の動向を把握できるようになります。
しかし、有効求人倍率には注意しておきたいポイントも。
そこで今回は、有効求人倍率の計算方法や算出された数値からわかること、それらを踏まえた企業の対応について徹底解説していきます。
この記事を参考に、優秀な人材を確保できるよう採用活動の実施方法を考えてみてください。
有効求人倍率とは?その定義と基本の仕組みを解説
転職サイトなどでよく目にする「有効求人倍率」とは何のことなのでしょうか?求め方やその数が示していることをわかりやすく紹介します。
有効求人倍率とは?一人あたりの求人の数を示す指標
有効求人倍率とは、「求職者一人あたりに何件の求人があるか」を示している数値のことです。
数値が1以上になると求職者数よりも求人数が多い状態となり、仕事を見つけやすくなるでしょう。有効求人倍率は、厚生労働者が全国のハローワークに登録されている求人数と求職者数をもとに、毎月算出しています。
有効求人倍率の計算方法
有効求人倍率を求める式は「有効求人数(企業がハローワークで募集している仕事の数)」÷「有効求職者数(働きたい人の数)」です。
有効求人数が100、有効求職者数が200の場合には、有効求人倍率は0.5になります。
有効求人倍率の数値の見方
次に有効求人倍率の数値からわかることを解説します。見方を知ることで、現在の求職者と企業の状態が理解できるようになるでしょう。
「高い」と「低い」時の意味すること
有効求人倍率は、1に近いほど求人数と求職者数のバランスが取れている状態です。
「有効求人倍率が高い」とは、数値が1以上のことを示しています。反対に、低いとは数値が1以下のことをいいます。
有効求人倍率が高い場合と低い場合では、どんなことがわかるのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。
そのため、企業は積極的に雇用をしており、求職者にとっては就職に有利だといえるでしょう。有効求人倍率が高いことを求職者(売り手)に有利な状態として「売り手市場」といいます。
また、有効求人倍率低いときには求職者数が多いだけでなく、企業が人を雇えない状態であるとも考えられます。有効求人倍率が低いことを企業(買い手)に有利な状態として「買い手市場」といいます。
景気や完全失業率との関連性
有効求人倍率は景気を見るのにも使える資料です。
一方で、数値が1を下回るときには求人が足りない状態であるため、景気が悪いとわかります。
また、有効求人倍率と完全失業率を見て、景気を測る方法もあります。
完全失業率とは、労働者人口に対して職がなく求職活動をしている人の割合を示しており、数値を求める式は「失業者÷労働者人口×100」です。
完全失業率は、総務省統計局が全国からランダムに選択した4万世帯10万人にアンケートを実施し、その回答から数値を算出しています。
景気が回復傾向にあると、有効求人倍率が高くなり完全失業率が低くなっていきます。
反対に、不景気になるとリストラなどから完全失業率が高くなり、それに伴い有効求人倍率が低くなるでしょう。
しかし、有効求人倍率より完全失業率の変化には時間がかかるため、これらの数値から正確に景気を見極めるのは難しいかもしれません。
季節調整値の影響とその見方
有効求人倍率や完全失業率と一緒に書かれている「季節調整値」という数値に疑問を持った方も多いでしょう。
季節調整値とは、季節による影響を除いた数値であることを示しています。
有効求人倍率は毎月算出されますが、それぞれの月によって稼働日数や決算に伴う社会習慣の影響などで労働者の状態は異なります。
季節調整値の算出方法は「求めた有効求人倍率÷季節指数×100」です。
季節的要因を除くことで、前月や前々月との比較ができるようになり、精度の高い分析が可能になります。
最新の有効求人倍率の動向
それでは、最近の有効求人倍率を見ていきましょう。動向をチェックすることで景気や求人状況を理解できます。
職業別の有効求人倍率の傾向
ここでは、厚生労働省が発表した令和6年9月の全国の有効求人倍率(常用・除パート)を職業別に紹介します。トップ5とワースト5をそれぞれ表にしたのでチェックしてみてください。
<有効求人倍率トップ5>
職業名 | 有効求人倍率(季節調整なし) |
建設躯体工事従事者 | 9.44 |
その他技術者 | 7.59 |
保安職業従事者 | 6.95 |
土木作業従事者 | 6.95 |
建築・土木・測量技術者 | 6.67 |
<有効求人倍率ワースト5>
職業名 | 有効求人倍率(季節調整なし) |
美術家、デザイナー、写真家、映像撮影者 | 0.16 |
事務用機器操作員 | 0.27 |
その他の運搬・清掃・包装等従事者 | 0.28 |
一般事務従事者 | 0.32 |
その他専門的職業 | 0.59 |
参考:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和6年9月分) 参考統計表
令和6年9月の有効求人倍率は以上の通りでした。専門的な技術や資格を必要とする職業の求人が多く、有効求人倍率が高いことがわかります。
一方で、美術家やデザイナーなどセンスを問われる職業は求人数が少なく、前月と比較してもほとんど数値に変化はありません。
都道府県別の有効求人倍率
次に、都道府県別に有効求人倍率を確認しましょう。今回は、令和6年9月におけるエリアごとの主要都市をピックアップしました。前年の同月と比較していきましょう。
<関東エリア>
都道府県名 | 有効求人倍率(令和6年9月) | 有効求人倍率(令和5年9月) |
東京都 | 1.09 | 1.18 |
神奈川県 | 1.10 | 1.12 |
埼玉県 | 1.15 | 1.19 |
千葉県 | 1.24 | 1.22 |
<東海エリア>
都道府県名 | 有効求人倍率(令和6年9月) | 有効求人倍率(令和5年9月) |
愛知県 | 1.22 | 1.32 |
静岡県 | 1.26 | 1.32 |
岐阜県 | 1.53 | 1.62 |
<近畿エリア>
都道府県名 | 有効求人倍率(令和6年9月) | 有効求人倍率(令和5年9月) |
大阪府 | 1.05 | 1.09 |
京都府 | 1.26 | 1.23 |
兵庫県 | 1.14 | 1.16 |
奈良県 | 1.32 | 1.32 |
<九州エリア>
都道府県名 | 有効求人倍率(令和6年9月) | 有効求人倍率(令和5年9月) |
福岡県 | 1.15 | 1.05 |
熊本県 | 1.37 | 1.45 |
前年の同月と比較すると、多くの都道府県で有効求人倍率が微減傾向であることがわかりました。
しかし、有効求人倍率が1以下になることはなく、全国的に売り手市場が続いており、求職者に有利な状態が続いています。
新卒者向けの有効求人倍率の動向
リクルートワークス研究所では、毎年1~3月に翌年3月に卒業予定の大学生・大学院生と民間企業にアンケートを実施し、大卒求人倍率を算出しています。
大学求人倍率を求める式は「求人総数÷民間企業就職希望者数」です。過去3年間の大学求人倍率は以下の通りです。
調査対象者 | 大学求人倍率 |
2023年3月卒業(23卒) | 1.58 |
2024年3月卒業(24卒) | 1.71 |
2025年3月卒業(25卒) | 1.75 |
新型コロナウイルスが流行した2021年や2022年は大学求人倍率が下がりましたが、それ以降は上昇しています。
また、大学求人倍率の上昇に伴い、初任給の引き上げを行う民間企業もあり、積極的な雇用をしている企業が多く見受けられました。
参考:リクルートワークス研究所 大卒求人倍率調査(2025年卒)
有効求人倍率の注意点と見落としがちなポイント
ここでは、有効求人倍率を見る際の注意点と見落としがちなポイントを紹介します。以下の3つを理解した上で参考にするようにしましょう。
ハローワーク以外の求人情報が含まれない理由
有効求人倍率は、厚生労働省が全国のハローワークの情報をもとに算出しています。そのため、ハローワーク以外の求人サイトやアプリなどの情報は数値に含まれていません。
ハローワークを利用している求職者の中でも、ハローワークから紹介された企業以外に就職している方も多いため、有効求人倍率に現在の求人状態が反映されているとはいい切れないでしょう。
正社員以外の求人も含まれることへの注意
ハローワークの求人数には、正社員だけでなくパートやアルバイトの求人も含まれています。
パートやアルバイトの求人を除いた有効求人倍率も発表されていますが、それらには派遣社員や契約社員も含まれているため、正社員のみを対象とした有効求人倍率ではありません。
統計データと実態のズレが発生する理由
有効求人倍率は、ハローワークの求人状況を示したものです。最近では、スマホから簡単に仕事を探せる求人アプリや求人サイトを利用する方も多い傾向にあります。
そのため、有効求人倍率ではすべての求人の実態を完全に表したデータとはいえません。しかし、求職者や景気の動向を知る重要な指標であることには変わりありません。
雇用動向を知る目安として上手に活用すると良いでしょう。
有効求人倍率と企業の採用活動の関係
有効求人倍率は、採用活動中の企業に対してどのような影響をもたらすのでしょうか。採用の際に気をつけたいポイントなどを解説していきます。
売り手市場と買い手市場の違いとは?
売り手市場とは、求職者よりも求人数が多い状態。反対に買い手市場とは、求人数よりも求職者数が多い状態のことを表しています。
有効求人倍率でいうと、1よりも大きければ売り手市場、小さければ買い手市場です。
現在は有効求人倍率が1以上になる売り手市場が続いており、求職者は仕事を選びやすく、企業側も積極的に雇用をすすめている状態であると考えられます。
採用活動の改善に向けた企業の対応ポイント
多くの企業では必要な人材を確保できるよう、売り手市場では採用活動に力を入れ、買い手市場のときは採用基準を厳しくする傾向があります。
その結果、売り手市場のときは求職者が多くの企業から採用をもらいやすくなり、企業は採用が難しくなるでしょう。
そのため、新しい採用方法や、採用基準を見直すなど工夫することが大切です。
中途採用で起こりがちな問題の一つに、自社で出した求人に応募が来ないことが挙げられます。新たな人材が確保できないことによる人手不足を解消するには、自社で出した求人に必要数の応募が集まらない原因を正しく把握し、対策を練ることが大切です。 […]
今後の有効求人倍率の予測と人事の対策
最後に、今後の有効求人倍率の推移を予測していきます。また、これに伴った人事の対策方法もチェックしてみてください。
今後の傾向予測と採用活動への影響
現在の日本は少子高齢化が深刻化し、2030年には「超高齢社会」に突入するといわれ、ますます人材不足の加速が予想されています。その結果、有効求人倍率は高い状態を維持すると考えられています。
最近では、外国人労働者を受け入れる企業も増えてきており、日本の少子高齢化に伴ってさらに増加すると予測できるでしょう。
高齢者の再雇用や女性・外国人の採用など、採用ターゲットを広くしていくことが大切です。
人事担当者が押さえておくべき要点
有効求人倍率が高くなると、求職者は仕事や企業の選択肢が多くなります。そのため、競合企業との差別化を図ることが大切です。
リモートワークや時短勤務の導入など、働きやすい環境を整えるのも効果的です。
また、労働環境や評価制度、福利厚生などの見直しを行うことは従業員の不満解消につながり、採用後の定着率向上にも役立ちます。
これらは採用担当者のみの意向で決められないため、一度企業で採用について話し合うのが良いでしょう。
まとめ
この記事では、有効求人倍率やその見方について解説してきました。有効求人倍率は、雇用や景気の動向を判断する指標として用いられています。
売り手市場は今後も継続すると考えられるため、企業にとって優秀な人材の確保はますます課題になるでしょう。
福利厚生の充足や新しい採用ターゲットの導入など、自社の採用活動を見直すのも大切です。
この記事を参考に、現在の有効求人倍率と求職者の動向を知り、これからの採用活動に活かしてみてください。
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