在籍型出向とは?メリットや導入する企業への支援制度・事例を紹介

コロナ禍で導入する企業が増加!?在籍型出向

新型コロナウイルスの影響を受け、従業員の雇用を守るため「在籍型出向」という働き方がより注目されています。

どのような仕組みでどのように働くのか、出向先企業、出向元企業、出向者それぞれのメリットや注意すべきポイントや事例も含めて詳しく解説します。

在籍型出向とは

在籍型出向とは、出向元企業と出向先企業との間の出向契約により、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、一定期間継続して勤務することです。別名、雇用シェアとも呼ばれています。

画像引用:厚生労働省

労働者は元々雇用関係のあった出向元の企業と雇用契約を結んだまま、出向先の企業とも雇用契約を結び、2つの企業と雇用関係をもちます。新型コロナウイルス感染症の影響で、一時的に雇用過剰となった企業が従業員の雇用を守るために、人手不足の企業との間で雇用シェアするケースが増加しています。

労働者派遣との違いは?

在籍型出向と労働者派遣の違いは、企業と労働者との関係性にあります。

画像引用:“基本がわかる” ハンドブック

在籍型出向での、出向労働者と出向先企業の関係性は「雇用関係」です。

在籍型出向も、労働者派遣も、出向先の指揮命令を受ける点では同じです。しかし、労働者派遣は、派遣元のみと雇用関係があり、雇用関係がない出向先とは、指揮命令のみを行う関係になります。

また労働者派遣と違い、在籍型出向の形態は、出向元企業・出向先企業のどちらとも雇用関係があります。在籍型出向で雇用が維持されているため、労働者は出向元企業の状況により、出向元企業に復帰することが可能です。

どれくらいの企業が利用している?

厚生労働省は、在籍型出向(雇用シェア)の届け出状況まとめました。

今年の2月から10月までの約8カ月で、

出向労働者数:8373人
出向元事業所数:812社
出向先事業所数:1331社

厚労省では、休業と在籍型出向(雇用シェア)を併用し、雇用維持を図っている状態にあり、選択肢の一つとして取り組む事業主が増えている状況です。

利用企業が増加する中、生まれる課題は?

様々な課題があげられますが大きくまとめると下記の3つに課題があるようです。

画像引用:日本・東京商工会議所

  • 出向者の選定等の人材関係
  • 人件費等の経費関係。
  • 出向契約や交渉に関わるノウハウ関係

出向先が異なる業界の場合、出向者のスキルや能力が出向先でそのまま発揮できるかを課題に感じているようです。また出向させることで出向元がマンパワー不足や優秀な人材を失うことになる可能性もあるため、出向者の選定に課題を感じている企業が多いようです。

出向契約等のノウハウ関係については特に中小企業が課題に感じており、出向の経験したことがない企業が多いため、知識・ノウハウが不足しています。

在籍型出向はどんな業種に向いている?

では、どんな業種が在籍型出向に向いているのでしょうか。

最も多い出向元は運輸業・郵便業で3435人であり、航空、鉄道、バスなどコロナ禍で業績が厳しい業界が中心の在籍型出向活用が進んでいる状況です。

一方、出向先は製造業の1720人であり、パンデミック時にPCなどの電子機器の販売が好調だったことから半導体関連や電子部品などの生産拡大が要因の一つとみられます。

また、下記の人手不足の調査によると建設業や介護・看護業が強く人手不足を訴えており、反対にコロナの影響を強く受けた宿泊・飲食業は「過剰である」と答えた割合が他業種に比べると大幅に多いことが分かります。建設業や飲食業も今後在籍型出向が増えていくのではないでしょうか。

画像引用:日本・東京商工会議所

在籍型出向を実施する企業への支援は?

日本では、新型コロナウイルスの影響により、一時的な事業縮小をした企業が、人材不足で悩まれている企業との間で「在籍型出向」を活用して従業員の雇用の維持を図る取り組みを支援しています。いくつかその支援制度を紹介していきます。

産業雇用安定助成金

「在籍型出向」により雇用維持を図る場合、出向元と出向先の双方の事業主に対して、その出向に要した賃金や経費の一部を助成する「産業雇用安定助成金」が令和3年2月5日付けで創設されました。

出向運営費として、出向元事業主及び出向先事業主が負担する賃金・教育訓練および労務管理に関する調整経費など、出向中に要する経費の一部を助成します。こちらは、1人あたり1日最大12,000円(出向元事業主と出向先事業主の負担額の合計)支払われます。

画像引用:“基本がわかる” ハンドブック

また、出向初期経費として、契約に関わる整備費用・出向元企業が出向に際して行う教育訓練・出向先企業が出向者を受け入れるための機器や備品等の整備等の出向の成立に要する措置を行った場合に助成します。出向元企業・出向先企業それぞれ10万円/1人当たり(定額)、業種等による加算額はそれぞれ5万円/1人当たり(定額)支払われます。

雇用調整助成金(出向)

事業主が在籍型出向を行う場合は、雇用調整助成金の支給対象となります。出向元企業が出向労働者の賃金の一部を負担する場合、以下のいずれか低い額に助成率(中小企業2/3、中小企業以外1/2)をかけた額を助成します。

  • 出向元企業の出向労働者の賃金に対する負担額
  • 出向前の通常賃金の1/2の額

※ただし、8,370円×300/365×支給対象期の日数が上限です。

人材確保等促進税制

企業の経営改革の実現のため人材の獲得、新型コロナウイルスの影響によって、厳しい雇用情勢の中で雇用の維持・確保のための在籍型出向の受け入れ、人材育成への投資を積極的に行う企業に対し、新規雇用者給与等支給額の一定割合を法人税額又は所得税額から控除します。

在籍型出向を導入するメリット・デメリット

では、出向元、出向先、出向者この3者に向けたメリット、デメリットをご紹介します。

出向させる側

新型コロナウイルスの影響により、一時的な事業縮小を余儀なくなれた企業が、業績が芳しくない間、出向させることで人件費の削減ができます。業績回復をしたタイミングで大切な人材がもどってくる前提の出向のため、解雇せずに人材の確保を図ることができます。

受け入れる側

良い人材を確保できることで、研修費や育成費、求人などの経費軽減ができます。出向者から新たなノウハウが吸収でき、組織が活性化することがメリットにあげられます。

労働者

営業不振に陥っても、雇用が維持され、休業もしないで働けることができます。たくさんの失業者が出ている状況化で新たなスキルの獲得、ノウハウの吸収ができることは最大のメリットになります。

3者ともにノウハウの吸収、成長が見込めることがメリットになっていることがわかります。

デメリット

一方、デメリットは下記のようになります。

出向させる側

出向者分のマンパワーが減ります。出向先での業務にやりがいを感じ優秀な人材が転職してしまう可能性もあります。

受け入れる側

想定しているスキルを持った求めていた人材が来ないミスマッチが起こる可能性があります。さらに期間を設けての出向のため、出向元に戻ることが前提としてありますので長期的な戦力化が見込めません。

労働者

新たな環境、業務のためストレスがかかります。本人が出向を望んでいない場合、退職するケースもあり、キャリアアップにならない可能性もあります。

在籍型出向導入の流れ

大きな流れは、出向者の選定・同意・労使の話し合いを行い、出向元と出向先での出向契約の締結して出向期間中の労働条件等の明確化したら出向開始します。出向元企業、出向先企業、労働者との3者でよく話し合い、出向の必要性や期間などの労働する上での条件について、契約内容等を明確にしておくことが重要です。

画像引用:“基本がわかる” ハンドブック

ここからは在籍型出向を導入するにあたり、出向元企業、出向先企業に分けて流れを説明します。

自社の従業員を出向させる場合

自社の従業員を出向させる場合は、下記のような流れで実施します。

  1. 出向先の企業と労働条件について話し合う
  2. 従業員に出向先の労働条件の提示して同意を取る
  3. 出向契約書を作る
  4. 助成金が必要な場合は助成金の申請

在籍型出向の特徴としまして、出向の命令には従業員は従わなければならないため、社員に対して個別での同意を得なくても出向を命じられ、社員は命令に応じなければいけません。

会社からの出向命令に対し、その規定が就業規則に記されていれば社員は拒否できません。もし、社員が在籍出向の拒否や無視をした場合、企業側は就業規則に則り、懲戒処分の措置を取ることが可能です。

しかし、助成制度を活用する場合には出向労働者本人が出向することについて同意していることが必要です。

出向を受け入れる場合

出向を受け入れる場合は、下記のような流れで実施してください。

  1. 出向元の企業と労働条件について話し合う
  2. 出向契約書を作る
  3. 出向者の受け入れ

出向従業員が勤務することになる受け入れ企業でも、賃金と労働条件に関する書類を作成して交付する必要があります。出向先企業が受け入れる際に用意すべき書類は以下2つです。

賃金規定書類

賃金規定とは、給与の支払いに関する取り決めを記した書面です。

在籍型出向では、出向先企業と出向元企業の給与が異なることも多いので、差額分の負担をどうするか等について事前に決めておくことが重要です。

労働条件通知書

労働条件通知書は、雇用契約を締結する際に、会社が従業員に交付する書面のことです。

就業場所、雇用期間、業務内容、給与・賞与などの労働条件について記載します。こちらの書類は交付が義務付けられています。

出向労働者への給与の取り扱いについて

紹介手数料は発生する?

在籍型出向での給与負担は出向契約で決まります。

通常、労働者に給料を支払うのは労働契約を結んでいる会社ですが、在籍出向の場合、出向社員は出向元、出向先のどちらとも労働契約を結んでいるので、どちらも出向社員に支払うことは可能です。

出向元、出向先どちらとも支払いが可能のため、出向契約にしたがってどちらかの企業が振り込みをする形になります。

在籍型出向を実施する際の注意点

在籍型出向契約では、出向元企業と出向先企業の両方で雇用契約を締結するため、指揮命令関係や給料の支払い等でトラブルが生じる可能性があります。

特にトラブルなりやすい項目は以下の通りです。

給料の支払いについて

上記、給与の取扱いについてにある通り、給料については出向元、出向先企業のどちらが支払っても構いません。

直接支給:出向先が従業員に直接支払う方法
間接支給:出向元が従業員に支払い、出向先が出向元に給与相当額の負担金を支払う方法

給料支払いについてはこの2通りがございます。

社会保険の取り扱いについて

社会保険料を出向元と出向先のどちらが負担するか異なるため注意が必要です。具体的には以下の通りです。

雇用保険

直接支給の場合は出向先が払いますが、間接支給の場合は、給料の支払額が多い方の企業が負担します。

厚生年金・健康保険

直接支給の場合は出向先、間接支給の場合は出向元が負担します。ただし、厚生年金と健康保険については、従業員は双方の企業の被保険者となることができます。従業員がどちらかを選択して届け出を提出します。

残業代、賞与、退職金の支払い

残業代、賞与、退職金は、出向元の規定によって計算して支給されます。出向する従業員の労働契約の大元は出向元との契約にあり、出向期間も出向元の勤務年数に含めて計算されるからです。

ただし、従業員の勤務は出向先で行われるので、残業代を計算するためには、出向先が出向元に残業時間を報告するなどの対応が必要です。また、賞与に関しては、出向元の基準で出向先が支払うのは困難な場合もあり、一部出向元が負担するケースもあります。これらの条件も、企業間で事前に話し合い、出向契約に明記することが大切です。

【トラブルを防ぐために事前に決めておくべき労働条件14項目】
1 労働契約の期間
2 有期契約の場合の更新の基準
3 就業場所、業務内容
4 就業時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間
5 賃金の決定、計算、支払方法、賃金の締め切りと支払時期、昇給
6 退職に関すること(解雇事由を含む)
7 退職手当に関する事項
8 臨時に支払われる賞与などの事項
9 従業員に負担させる食費や作業用品など
10 安全衛生
11 職業訓練
12 災害補償、業務外の疾病保障
13 表彰、制裁
14 休職に関する事項

1~6の項目は原則として書面の交付で明示する必要があります。 ※(5の昇給に関することを除きます)

トラブルになりやすい項目である7~14の項目について、双方の理解が大切になってくるため7~14の項目は、使用者がこれらの定めをした場合において、書面の交付は義務づけられていませんが、明示する必要があります。

在籍型出向の具体例

新型コロナウイルスの影響により在籍型出向を取り入れた企業も増えてきています。在籍型出向の様々な事例がございますが、具体的な事例を2つご紹介します。

航空会社からの在籍型出向

ANAホールディングスや日本航空(JAL)の航空会社からの出向が話題となりました。

新型コロナウイルスの影響で旅客需要が減少。出向先としてはスーパー成城石井、家電量販店「ノジマ」、通信大手「KDDI」人材サービス大手「パソナ」があります。家電量販店のノジマは20年11月から両社からの受け入れを始め、21年春までに約300人を店舗やコールセンターにてスキルを発揮できるよう、働いてもらうことにしています。

外食産業からの在籍型出向

外食産業も新型コロナウイルスで業績不振が続いています。

居酒屋大手チムニー、「塚田農場」などを展開するAPホールディングスからの出向も事例として挙げれられます。出向先は大手スーパーイオングループです。急激な人材不足に対応するため雇用シェアを活用しています。居酒屋での接客・調理スキルが即戦力として期待されています。

まとめ

新型コロナウイルスの影響により、在籍型出向という働き方がより注目され始めています。

出向元企業・出向先企業・労働者の3者にメリット・デメリットがあります。在籍型出向は、社員の雇用を守り、育成コストの軽減や人材の能力向上などを見込めるため、合理的な雇用形態、働き方だといえるでしょう。

雇用過剰また逆に人材不足に悩む状況でしたら、各地域での支援も始まっていますので、在籍型出向を検討してみてください。

関連記事

今や当たり前の働き方として根付いているアルバイトと派遣ですが、そもそも何が違うのか、採用するならどっちが良いのでしょうか。 それぞれのメリット・デメリット含めて自社で採用する場合にも参考にできるよう、徹底解説します! 派遣とは こ[…]

派遣とアルバイトの違いとは?それぞれのメリット・デメリットを紹介!

OSCTA

コロナ禍で導入する企業が増加!?在籍型出向
フォローして毎日記事をチェック!