退職代行とは?利用しやすい人物・環境の特徴やトラブル事例

退職代行とは?利用しやすい人物・環境の特徴やトラブル事例紹介

退職代行は2018年頃から、メディアなどで注目されるようになりました。本来であれば退職の意思は、自分で上司に伝えるのが一般的です。しかし実際には退職代行を利用しないと、退職ができない事例もあります。

今回は、この退職代行のサービスが普及した背景と事例・社員が退職代行を利用しなくて済む取り組みに関して紹介していきます。

退職代行とは

退職代行とは職場に対して、社員の代わりに退職の意思を伝えるサービスです。

会社を退職したいと思って退職の意思を告げても、上司から退職を受け入れてもらえず、退職できないという問題は多く発生しています。この問題に対して依頼人の勤務先の会社に「退職の意思と退職日」を伝えることが退職代行です。

退職代行の認知度・利用率

2023年10月にエン転職を運営するエン・ジャパン株式会社がユーザー7,749名を対象に行った調査によると、退職代行サービスの認知度は72%で、そのうち20代では8割以上が退職代行の存在を認知していることがわかりました。

退職代行普及率

引用:7700人に聞いた「退職代行」実態調査ー『エン転職』ユーザーアンケートー

今回の調査では、その利用率を見てみると、「退職代行サービスを利用したことがありますか?」という質問に対して、「利用したことがある」と答えたのは全体の2%で、「自分ではなく、同僚や知人が利用した」と回答した割合も5%に留まる結果となっていました。しかしながら、肌感覚として数年前に比べて、「退職代行サービス」を利用して退職の意を申し出る社員が増えている印象ではないでしょうか。

実際に、退職代行サービスを運営する「EXIT」が自社のサービス利用者を調査したところ、その利用率は年々増加傾向にあり、2021年は67.1%だったのに対し、2年で5.1%も増えている状況となっています。

20代利用率

参照:ITmediaビジネス記事/退職代行サービスEXITによるアンケート調査

なぜ退職代行サービスが普及した?

退職代行サービスが普及した背景について2点紹介します。

大きく分けるとブラック企業をやめられない人が増えたことや、ネット環境が原因となる人間関係の希薄化があげられます。

ブラック企業を辞めたい人をサポート

これは退職代行サービスが普及したきっかけになる背景です。

特に現代では「ブラック企業」という単語が浸透しているように、すべての企業で円満退社をできるわけではありません。退職の意思を伝えても上司が退職を受け入れてくれず、いつまでもその企業に在籍することになってしまいます。

結果的に退職をしたくてもできなければ、モチベーションが上がらないまま業務に取り組むことになり、パフォーマンスも低下してしまうでしょう。このような状況に対して退職したい社員に代わり、退職の意思を告げる退職代行サービスの需要が上がっていったのです。

インターネット普及による人間関係の希薄化

今の若い世代は何かわからないことがあれば、インターネットで検索する習慣があります。そこで「会社、退職、方法」と検索をすると、退職方法の中に「退職代行サービス」という方法が見つかります。

さらに近年コロナウィルスの影響で多くのことがオンライン上で行われることもあり、より一層対面でのコミュニケーションは減っています。そこで自分で直接会社に退職の意思を伝えるのが面倒と考える若者も退職代行サービスを利用するようになっています。

実際、日本労働産業ユニオンが運営する退職代行TORIKESHIを利用した4963名の利用者を対象に行った調査では、利用者の8割以上が20代~30代だとしており、勤続年数でいうと、1年以内が2408人、1年~5年以内が1802人で、勤続5年以内での利用者が8割以上を占める結果でした。

利用者年齢別

参照:日本労働産業ユニオン/退職代行サービスの利用実態についてのアンケート調査結果

退職代行を利用した理由

退職代行を利用してまで退職したい理由に関して紹介していきます。基本的には会社が退職を受け付けない、上司の反応への不安、自分が不利になることを防ぐ目的があげられます。

こちらは、前述したエン・ジャパン株式会社の同調査内で退職代行を利用した人に向けて「なぜ退職代行サービスを利用したのか」を聞いた結果です。

退職代行の利用理由

参照:7700人に聞いた「退職代行」実態調査ー『エン転職』ユーザーアンケートー

退職が言い出しにくい環境・人間関係が悪い

前述のとおり、退職代行サービスの利用者は勤続1年以内の20代~30代が大半です。関係値が出来上がっておらず、どう話を切り出したらよいかわからない・会社の誰に言い出せばよいかわからないなど退職を言い出しにくい環境が存在している可能性があります。

また、上記調査の回答者6割が「上司」「人間関係」が良ければ、退職代行サービスを利用しなかったと回答しており、特に30代では、

  1. 上司が話しやすい
  2. 職場の人間関係良い
  3. 退職意向をきちんと認めてくれる風土がある

といった環境であったなら、退職代行サービスを利用しなかったと回答する割合が多い結果となっています。

人間関係が悪かったのと、仕事の内容が合わなくて辞めたかった。退職したい意思を認めてもらえないような気がしたので、退職代行を使った。(24歳男性)

すぐに退職したかったから

精神的な苦痛を感じた場合には、今すぐにでも会社を辞めたいはずです。しかしながら、会社の人間と連絡を取ること自体が苦痛で、その苦痛を味わうくらいなら、手数料を払ってでも、代行会社に退職手続きしてもらいたいと思う人が増えているのではないでしょうか。

連日の残業で体調を崩し、精神的にも不安定だったので、救いを求めて利用した。(27歳男性)

退職の意思を伝えても聞き入れられない

本来労働者にはいつでも退職できる権利があり、それを会社が引き留めることは禁止されています。

しかし実際には退職の意思を伝えても聞き入れられない職場があり、そうした場合には当人がいくら準備しても退職を成立させることができません。特に20代よりも30代に多い傾向です。

人材不足のこのご時世において、できることなら自社に残ってほしいと思う会社も少なくないはずです。この場合いくら当人が掛け合っても会社側は対応してくれないため、外部のサービスに頼らざるを得ません。そのため退職代行サービスを利用することになります。

何度も退職希望について伝えたが辞めさせてもらえず、やむを得ず代行を使った。(32歳女性)

パワハラがあり言い出せない

上司が普段から怒鳴る・詰めるなどパワハラを行っている場合には、退職の意思を伝えた際に怒鳴られる可能性が高いです。

またパワハラが横行している職場の場合、退職を伝えても受け入れられなかった場合、その後の勤務に影響が出るケースも少なくありません。そうすると社員は萎縮し退職の意思を伝えることができず、退職代行サービスを利用せざるを得ない状況になります。

有給消化や未払い請求をしたい

直接退職の意思を伝えると、それだけで精一杯になってしまいます。

有給が与えられない・サービス残業が横行している会社であれば、退職の意思を伝えるのは退職代行サービスに依頼して、自身は有給消化もしくは未払いとなっている賃金を請求するための準備をします。

退職代行サービスを利用することで精神的負担を減らし、退職時自分にとって不利な状況を生まないようにすることも重要だと考えている方も多いのかもしれません。

どういう人物が退職代行を利用するのか

退職代行サービスを利用するのはどういう人物なのか紹介します。

  • 退職の意思を伝えづらい職場環境にいる
  • パワハラなどにより精神的苦痛を感じている
  • 普段から問題行動を起こしてしまっている
  • コミュニケーションが取れていない
  • 過去に退職代行サービスを利用したことがある
  • 転職回数が異様に多い

問題がなければ本来は、退職の意思は社員が会社に直接伝えます。それができない状況というのは、上記のような人物の特徴に当てはまっている場合が多いです。

職場環境における問題は、会社全体として取り組んでいく必要がありますが、それ以外の部分では、採用時に見極められる可能性もあります。

特に、過去に退職代行サービスを利用して前職を辞めている場合は、次もまた代行サービスを利用して退職する可能性は否定できないため、注意した方がよさそうです。求職者が過去に退職代行サービスを利用して退職しているかどうかは、バックグラウンドチェックを行うとよいでしょう。

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バックグラウンドチェックとは

そのほか、面接時に見極めたい施策について、下記資料でまとめてますので、合わせてご覧ください。

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退職代行の流れ

退職代行を利用する人は、以下のような流れで進めています。念のため把握しておくと良いです。

  1. 退職代行サービスへ相談
  2. 退職代行サービスへ依頼料金の振込
  3. 退職代行スタート
  4. 即日もしくは指定した日に退職が完了

特に今の会社で仕事をすることに対して精神的に追い詰められている人は、1日でも早く退職して次の職場に向けて動き出したいはずです。そんな中で退職代行サービスは即日退職でも対応しています。

深夜遅くまで受付をしているので、ブラック企業で深夜遅くまで勤務している人でも利用することができます。

退職代行から連絡があった場合の対応手順

会社としても急に退職代行から連絡があったら驚くはずです。対応の仕方を誤ってしまうとトラブル発生に繋がります。

そのため退職代行から連絡があった際の対応手順に関して紹介します。

  1. 退職代行が本当に該当社員の正式な代理権限があるのか
  2. 社員本人が退職代行に依頼した証明である委任状の確認
  3. 書面の受理をもって代行会社を代理人として退職手続きを進める

最初の段階での本当にその社員が退職代行に依頼したという証明の確認を取ってから退職の手続きを進めることが重要です。

退職代行は拒否できるのか

退職代行サービスが社員に代わって退職の意思を告げたとしても、それを拒否することは会社側にはできません。社員が退職の意思を告げたことと同じく、会社は円満退職のために動くことが必要です。

仮に会社の就業規則の中に「退職の意思を告げる場合には1ヶ月前に必ず申し出ること」と明記していたとしても、民法627条1項が優先されます。

そのため企業側は退職代行であれ、受け入れの拒否はできません。

退職代行のトラブル事例

退職代行によるトラブル事例に関して紹介していきます。それぞれ把握しておくことでトラブルを未然に防げるので、参考にして下さい。

業務負担が他の従業員に回ってしまう

特に即日退職となると業務を適切に振り分ける余裕もなく、残る社員の業務量が増えることになります。

そうすると業務が単純に増えたことにより、残っている社員たちも不満を抱えるようになります。退職代行で該当の社員以外の残る社員に対しても、フォローをすることが重要です。何も対処しなければ、会社の雰囲気悪化に繋がります。

企業としての信頼の悪化につながる

退職代行を使われたというのは社内外に広がります。

世間一般には退職代行はブラック企業を退職したい場合に、やむなく利用するサービスというイメージです。そのため退職代行を使われたことにより、顧客・社員からの信頼悪化に繋がる可能性があります。

社員が退職代行を利用しないために取り組むべきこと

会社・社員双方にとって、極力退職代行は利用しないで済ませたいものです。

そのため社員が退職代行を利用しなくて済むように取り組むべきことを紹介します。基本的には退職代行は会社の中での社員間のコミュニケーションがうまくいっていない中で発生します。

そのため意見を伝えやすい企業文化を構築することが重要です。そうすることで社員は悩みを相談することができるようになり、退職代行を使う理由も少なくなります。

またコンプライアンス委員会を設置することも重要です。退職代行を使う理由は直属の上司からのパワハラやセクハラによって起きるケースが多くあります。退職する理由の対象者に退職の意思を告げたいとは誰も思いません。そのようなハラスメントの撲滅に取り組むことが重要です。

まとめ

退職代行とは会社に一定の理由により直接退職の意思を告げられない社員が代行会社に依頼して会社と退職の交渉を行うことです。法律にて退職は社員の権利であり、会社がそれを拒否することはできません。

しかし実際には、退職の意思を告げてからの嫌がらせや、退職の意思が受け入れられないなどトラブルも多く発生しています。そうならないためにも、社員が退職代行を使わなくても済むように会社の職場環境の改善を行うことが重要です。

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