「リフレクション」は、社員が経験したことを一つ一つ振り返り、大きな成長へと繋げていく人材育成の手法として多くの企業や教育現場で取り入れられています。
そこで今回は、リフレクションの理論背景やリフレクションで得られる効果を紹介していきます。さらに、リフレクション教育の取り入れ方をはじめ、行う方法や進め方などもお伝えしていきますのでぜひ人材育成の参考にしてください。
リフレクションとは
リフレクションとは、日本語で「内省・反映・熟考・反響」といった意味で訳される言葉です。人材育成におけるリフレクションは、主に「内省」の意味で使われています。
日常の業務や仕事から一度離れ、自身の仕事の仕方や姿勢、業務フローなどを見直すことにより、仕事への理解度や知見を深められるのです。また、リフレクションは客観的な振り返りであるため、失敗してしまった際の感情や自責の念に影響されないフラットな観点から見られるという特徴があります。
加えて失敗だけでなく、成功や結果に至るまでの過程を含めたすべてを振り返り、そこから得た気づきをもとに次の行動へとステップアップを図ることから、未来志向な人材育成の方法論とされているのです。
リフレクション(内省)と反省の違い
リフレクション(内省)と聞いて、似た言葉である「反省」をイメージする人も多いでしょう。しかしながら、それぞれが含む意味合いには明確な違いがあるのです。
まず反省は、これまでに起こった事実に対し、悪かった点や自身の間違いについて振り返り、理由や原因を探ります。その目的は、誤りを正すことであり、ミスや間違いにスポットを当てられることがほとんどです。反省する時には「次は失敗したくない!」「失敗するのが怖い…」などの感情が伴う場合が多く、ネガティブな振り返りともいえるでしょう。
一方のリフレクションは、失敗や成功に囚われず客観的に自分の行動や過去の出来事、仲間の言動などすべてを見つめ直していきます。具体的には、「現状はこうであり、そこに至るまでにこんな行動をした。もっと上手くいくためにはどうしたらよいだろうか?」といった振り返りを行います。
これにより失敗の改善だけではなく、組織のコミュニケーションの円滑化や新たなアイディアが生み出すことにも繋げられるのです。リフレクションは自身および企業全体をより良くすることが目的であり、反省とは対照的なポジティブな振り返りといえます。
リフレクションが重要な理由
リフレクション教育は、経験から学び、時代の変化に対応できる人材の育成やチーム、企業の成長にとって重要な鍵となります。ここでは、リフレクションが重要な理由を個人・チーム・企業に分けて解説していきます。
個人
自身の経験をリフレクションしていくと、自身の行動パターンや思考の傾向を自覚し、自分が本来大事にしていることや強み、価値観などに気づけます。
これにより自身のアイデンティティや発達にも繋げられるのです。また、リフレクションにより経験から学ぶ力が育まれるため自己成長としても有効といえるでしょう。
チーム
チームでリフレクションを行うことにより、チームづくりやチームとしての成長を促せます。メンバーそれぞれがどのような行動をし、どのように感じ、どのように考えているのかを共有していき、仲間の価値観や考えに対する理解を互いに深めていくのです。そうすることで、チームの団結力を高められます。
企業
場当たり的に新しい状況に対応し続けていくと、個人やチームで得られた知識や経験が企業全体へと行き渡らず、個人やチームの間でのみにとどまってしまいます。生み出された成果物だけを見ても、それがどのような過程を経て生み出されたのか、その背景を知ることはできないのです。
企業でリフレクションを行えば、これまでに共有されていなかった個人やチームが持つ知識や経験を全体に循環でき、結果的に企業の成長へと繋げられます。
リフレクションの理論背景
リフレクションの理論は、「デューイの実践的認識論」、「ショーンの2つのスタイルのリフレクション」が由来となっています。
デューイの実践的認識論
アメリカの教育哲学者であるジョン・デューイ氏が唱えた、現在のリフレクションの原型となる理論です。デューイは、経験からの学びまでを2種類に分け、ひとつを「行き当たりばったりの試行錯誤的なもの」もう一方は「思考に結びつけられるリフレクティブなもの」としました。
さらに、人々の行いと結果の間に因果関係を発見しようとする努力がリフレクティブなものであると考えたのです。この考え方こそを「リフレクティブ・シンキング」とし、導かれた見通しから改善策は生み出されると唱えました。
ショーンの2つのスタイルのリフレクション
アメリカの経営組織論における研究者ショーンは、デューイが解いた理論に基づき「行為中におけるリフレクション」と「行為についてのリフレクション」という2つのタイミングのリフレクションを提示しました。
さらにショーンは、実践思考能力を持つ実践家とは、「リフレクティブな実践家」のことであるという定義も打ち出しています。
リフレクションの5つの効果
リフレクションを行うことで得られる効果を紹介していきます。
業務改善に繋げられ、生産性が向上する
リフレクションは、振り返りにより問題点や伸ばすべきポイントが見つけられるため業務の改善に繋げられます。より多くの社員に物事を客観的に見る力と改善するスピードが備われば、生産性が向上し、常に成長し続けられる企業を目指すことができます。
社員のモチベーションがアップする
リフレクションは人事担当や上司などの第三者からの評価ではなく、自分自身が評価するため、評価の信憑性や妥当性を疑う必要がありません。
さらに、リフレクションをすることで物事の考え方や仕事に対する意識の向上といったマインド面での変化も期待ができるのです。そのため、社員の仕事へのモチベーションも高まりやすくなります。
社員の強みを引き出せる
リフレクションから、社員は自身のどのような行動が業務に活かされ、どのような結果を生んだのかを知ることができます。自身の強みを理解するためには、まず自身の強みが活かされたという実感が必要です。
ただ周囲から指摘を受けただけでは、認識はできたとしてもあまり実感は湧かず、それ以降には再び強みを活かせない恐れもあります。リフレクションにより自身の強みを深く実感し、理解できれば業務でしっかりと強みを発揮し続けられるようになるのです。
社員の主体性が向上する
リフレクションは上司の指示を受けるものではなく、社員の主体性が求められる手法です。業務でスムーズに成果を出していくためには、社員それぞれの主体性が必要です。しかしながら業務上で社員にいきなり主体性を求めることは難しいでしょう。
したがってリフレクションの導入により、社員が主体的な行動の経験を重ね、自己理解が深まれば社員が主体性を持って業務にあたれるようになっていきます。
社員が前向きに行動できるようになる
リフレクションにより、社員は経験から今後に活かせる具体的な方法を自ら導けるようになります。
経験から学びを得られることが実感できれば、失敗を含んだすべての経験に意味を見出せるようになるでしょう。リフレクションを通して、改善策やその後の活かし方についても考える力がつくため、前向きな行動にも繋げられます。
どういう時にリフレクションを取り入れるべきか
リフレクションは、タイミングも重要です。リフレクションの対象となる出来事についての記憶や考えが鮮明な間に振り返りを行いましょう。日々の終業前や出来事を経験した直後に振り返る習慣づけをすると、より充実したリフレクションの実践ができます。
また、何かを経験している途中であっても、課題を抱えていると感じた時点で振り返りを行うのも有効です。そうすることにより、課題の進め方をより良くしていくための行動が明確になります。たとえ結果的に成功した経験であっても、それぞれの過程で良かった点や悪かった点を明らかにすることで、次回の行動に活かせる「知恵」を確立できるのです。
リフレクションを行う方法
リフレクションを行う方法には、以下の6つの段階を踏む必要があります。
- 経験した出来事について振り返り、リフレクションする事例のピックアップをする。
- ピックアップした事例の環境および関係者について振り返る。
- 理想と現実のギャップを確認する。
- 失敗もしくは成功した因果関係を客観的に考える。
- 続けていくこと、やめること、新しく始めることを書き出す。
- 次回からの行動目標の設定を行う。
漠然と振り返るだけでは、本来改善が必要であったポイントが明確にはなりません。そこで、ひとつの事例にフォーカスすることが重要です。
そして、細かく事例を分解し、各工程を客観的な視点で振り返ります。結果の成功・不成功にかかわらず良かったところと改善の余地があるところの両面をあぶり出し、次回の行動に活かせるようにしましょう。
うまくリフレクションを進めるにはどうしたらいいか
うまくリフレクションを進めるために注意すべきは、出来事の環境や関係者など外的環境における問題点について振り返ってしまうことです。
この視点に集中すると、外部に対する感情を引き起こしやすくなり、次回の行動改善に繋がりにくくなる可能性があります。次に同じ状態となった時に、自身が責任を負わずに済む対策にばかり考えが及んでしまう恐れもあるのです。
リフレクションは、間違いを犯した人や失敗の根元の特定を目的とせず、経験による学びを活かして、理想に近づくことに重きを置く手法です。リフレクションを行う時には、「何が悪かったか」に注目せず、客観的に振り返り、より良くするための行動を建設的に考えることが何より大切といえます。
まとめ
リフレクションは、優秀な人材育成やチームの活性化に効果的な手法であることが分かりました。
日々変化する現代のビジネス社会において、未来志向で考え、行動できる優秀な人材を育成することが企業にとって重要な課題となっています。企業や人事担当者は、社員が積極的にリフレクションを行える機会を提供していきましょう。
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