リカレント教育とは?導入メリット・注意点も解説

リカレント教育とは

近年、社会人の学び直しともいわれる「リカレント教育」に関心が集まっています。労働環境の変化などから、リカレント教育を重視する企業が増えているのが現状です。

この記事では、リカレント教育を企業で取り入れるメリットや注意点について、解説していきます。国の助成金や、実際にリカレント教育を取り入れている企業についても紹介するので、リカレント教育を自社に取り入れたいと考える人事担当者の方は参考にしてみてください。

リカレント教育とは

リカレント教育とは

リカレント教育とは、「社会人の学び直し」とも表現され、学校教育から離れた後も必要に応じて仕事と学習を繰り返すことを指した言葉です。リカレントとはrecurrentと表記し、繰り返す・循環するという意味があります。

社会人になった後に、自分の仕事に関した専門的なスキルや知識を習得するため、必要となるタイミングで大学などに通ったり資格取得を目指したりといった学び直しをすることを指します。

リカレント教育の提唱者

リカレント教育の提唱者は、ゴスタ・レーンというスウェーデンの経済学者です。国際的に注目を浴びたのは、スウェーデンの政治家オロフ・パルメが、1968年に開催されたヨーロッパ文相会議で言及したためです。

その後、1970年にはOECD(経済協力開発機構)が、教育政策会議でリカレント教育について初めて取り上げ、それ以降本格的に調査研究および普及に取り組むようになりました。

リカレント教育が必要とされる背景

リカレント教育が必要とされるようになった背景について、以下でそれぞれ解説していきます。

人生100年時代

かつての日本は、「教育→働く→引退」といった単線型といわれるライフステージが主流でした。しかし、「人生100年時代」といわれる現代において、平均寿命が延びる中、現代人は生涯現役で、仕事もプライベートも充実させるライフスタイルへ変わることを求められています。

そのため、今後は「教育→働く→学び直し→組織にとらわれない働き方」といった、より多くのステージを経験してから「引退」を迎えるマルチステージ型に転換していくと考えられています。このような背景からリカレント教育が注目されています。

労働環境の変化

リカレント教育が重要視される理由の一つに、労働環境の変化もあります。新卒一括採用や年功序列、終身雇用といった日本特有の制度の見直しが進んでいます。

目まぐるしく変化する現代社会で、求められる新しい専門知識やスキルを身につけるためにも、リカレント教育は企業にとって優先度が高くなっています。

技術革新による変化

デジタル分野において技術革新が急激に進んだことで、企業を取りまく環境も変化しています。2030年頃に起こるとされているのが「第4次産業革命」であり、人々の働き方を大幅に変えるだけでなく、生活自体も急激に変化させるほどの影響力があると考えられています。

技術革新が進む中、企業が環境の変化に柔軟な対応をしていくには、過去に得た知識やスキルでは通用しないでしょう。そのために学びを繰り返す必要があり、社員のスキル習得やアップデートは必須です。

こういった学びの場は、今の企業にとって必要不可欠なため、リカレント教育に注目が集まっています。

日本でのリカレント教育の現状

日本でのリカレント教育は、意識的・制度的ともに十分に進んでいるとはいえない現状です。

リカレント教育が大切だとしながら、日本での浸透率が低い理由には、企業からの教育負担が少ないことが挙げられます。人件費に関する問題などにより、社員の教育訓練に投資する予算が少ないことも問題視されています。

また、社員の研修や費用に時間をかけることに消極的な企業は少なくありません。企業側が積極的に働きかけをしない限り、社員自らが積極的にリカレント教育を受けるのは難しく、日本でリカレント教育が進まない理由の一つといえます。

リカレント教育を進める文部科学省の取り組み

リカレント教育の政府の取り組み

社会で活躍し続けるには、知識やスキルを常にアップデートして、変化に柔軟な対応をしていくことが大切です。

そのための学びとしてリカレント教育が注目を浴びている一方で、リカレント教育には興味があっても、費用の負担や時間の確保が難しく、躊躇する社員も少なくありません。

現在、文部科学省・経済産業省・厚生労働省が連携してリカレント教育政策を展開し、社会人のスキルアップやキャリアアップ、キャリアチェンジを後押しする取り組みを行っています。文部科学省が開発・運営しているサイトで、社会人の学び直しを応援する「マナパス」があります。

社会人の学びに関した情報を幅広くまとめているため、アクセスしてみるのもおすすめです。

リカレント教育とリスキリングの違い

リスキリングもリカレント教育同様に学び直しを表す言葉ですが、リスキリングは職場における能力の再開発・再教育のことを指します。リスキリング実施の目的は企業側にあるため、企業が社員に指示する形で行われます。

対して、リカレント教育は、個人的なキャリアアップや生涯現役で働くための学習として取り入れるため、リカレント教育の実施の目的が社員側にあるのが特徴です。社員の積極的な学びに企業側が支援する形で実施する違いがあります。

リスキリングのメリットや導入事例などについて知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

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リカレント教育の導入メリット

ここでは、リカレント教育を企業が取り入れるメリットについて解説していきます。

高いスキルを持つ人材育成ができる

社員がリカレント教育に取り組むことにより、スキルアップを図ることが可能です。仕事内容と直結するような学びは、企業にとって特に有用といえます。

また、スキルのある人材を新規に採用するより、自社に対して深い理解や知識を持つ既存の社員がリカレント教育を受けるほうが、コストパフォーマンスを考えても企業側にとってメリットになるでしょう。

生産性の向上

リカレント教育を受けることで一人ひとりの能力が上がった結果、業務の効率化が進み生産性が向上するのも、企業側が得られるメリットの一つです。

リカレント教育により、社員は現代のニーズに沿った学びを得られ、知識やスキルをさらに強化することができます。社員の能力が上がることで、自社商品やサービスの質も向上し、その結果、会社全体の業績向上や増益に繋がるでしょう。

社員の離職を防ぐ

「年々難しくなる人材確保」や「労働環境の変化」といった企業側が抱える課題に対応するには、人材の定着がとても重要です。優秀な人材ほど高い意欲を持つため、さらに成長することを考えて離職する傾向にあるでしょう。

企業がリカレント教育を取り入れ、社員の知識やスキルが増えれば業務の幅も広がります。そうすることで、社員は、自分のキャリアパスを描きやすくなります。

自社内で効率良くスキルアップが可能となれば、意欲的な社員がキャリアアップのための離職を考えず定着し、離職を防ぐことに繋がるでしょう。

リカレント教育を取り入れる際の注意点

ここでは、リカレント教育を企業で取り入れる際の注意点について解説します。

労働環境の整備

リカレント教育を社員に受けてもらうためには、労働環境の整備が大切です。「受講期間中のブランクで評価が下がらないか」「学びを活かした仕事内容に就けるのか」といった不安を社員が持つことがないよう、企業側は制度を整えなければなりません。

そのためには、求職や復職、休暇中の給与などを見直すことが重要であり、社員が安心してリカレント教育を受けられる仕組み・環境を整える必要があるでしょう。

費用のサポート

社員のリカレント教育を企業がサポートするには、新しい制度を導入し運用する必要があるため、人的コストがかかります。大学などの学費を一部負担する場合は、その予算も必要です。

リカレント教育を企業が取り入れるにあたり、国や行政ではその際の支援を用意しているため、一度検討してみるのも良いでしょう。

また、リカレント教育プログラムを用意している地方自治体もあるので、確認してみるのもおすすめです。

転職のリスク

社員がリカレント教育を受けた後には、得た知識とスキルを活かせるポジションの配置や場所を用意することが大切です。せっかく学びを得ても「リカレント教育の成果が発揮できない」と社員が感じてしまえば、他社へ転職するリスクが高まるでしょう。

社員が転職してしまうと、企業はリカレント教育をサポートした成果が還元されずに、負担だけが残ることになります。リカレント教育受講後にどのようになるのか企業側は予測し、社員が不安にならないようにすることが重要なポイントです。

リカレント教育を企業で取り入れる方法

リカレント教育にはさまざまな支援制度が設けられています。企業でリカレント教育を取り入れる方法として、いくつか紹介します。

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、社員に対して業務に関わる専門的な知識や技術を身につけるための訓練・育成を企業側が行う際に、かかる費用などの一部を支援するための制度です。人材開発支援助成金には、主に以下の7コースがあります。

  1. 人材育成支援コース
  2. 教育訓練休暇等付与コース
  3. 人への投資促進コース
  4. 事業展開等リスキリング支援コース
  5. 建設労働者認定訓練コース
  6. 建設労働者技能実習コース
  7. 障害者職業能力開発コース

厚生労働省では2023年4月から、特定訓練コース・一般訓練コース・特別育成訓練コースとあった3つのコースを統合して「人材育成支援コース」を創設しました。従来のコースごとで行う手続きが不要となり、利用しやすくなっています。

生産性向上支援訓練

生産性向上支援訓練は、企業が労働生産性を向上させるのに必要な知識やスキルを習得する職業訓練です。生産性向上人材育成支援センターが、企業のニーズに沿ったカリキュラムをオーダーメイドして訓練コースを設定します。

訓練は、専門的な知見や技術を持つ民間機関などに委託して実施します。

生産性向上支援訓練で実施する訓練コースは、「生産・業務プロセスの改善」「横断的課題」「売り上げ増加」「IT業務改善」の4つに分類されます。生産性向上支援訓練は、一人当たりの費用も3,000~6,000円と比較的受講しやすい料金設定であることも特徴です。

また、人材開発支援助成金を活用し、訓練コースにかかる費用の助成を受けることもできます。

キャリアコンサルティング

キャリアコンサルティングによって、社員はキャリアやキャリアアップに関する不安を相談でき、指導またはサポートを受けられます。

厚生労働省委託事業の「キャリア形成サポートセンター」では、就業していると無料でキャリアコンサルティングを受けることが可能です。どのようなスキルや知識を学べば良いのか悩む社員もいるでしょう。

専門のコンサルティングを受けることによって、自身のキャリア形成に必要な能力を明確にでき、学び直すためのテーマを見つけられるでしょう。

リカレント教育を進める企業事例

最後に、リカレント教育を進める企業が取り組んでいる事例を紹介します。

ソニー株式会社

ソニー

電子機器の開発や製造などを行うソニー株式会社では、「フレキシブルキャリア休職制度」を取り入れ、学び直しをしたい社員の支援をしています。

専門的な知識やスキルを得るための修学では最長2年の休職制度を利用でき、さらに入学時に必要な初期費用を最大50万円まで企業側が負担する支援もあります。

株式会社ミクシィ

ミクシィ

デジタルエンターテインメント事業を展開する株式会社ミクシィでは、「スキルアップ支援プログラム」を実施し、社員の自己研鑽の支援に力を入れています。

プログラミング学習や英語学習といったパートナー企業のサービスを、特別優待で活用可能です。また、ビジネス書や自己啓発本など、企業の成果に繋がる書籍の購入を支援する制度もあります。

キヤノン株式会社

キヤノン

情報通信機械器具などの開発と製造を行うキヤノン株式会社では、「自ら成長する意欲」を持つ社員の支援に積極的に取り組んでいます。

「キヤノンプロダクショントレーニー制度」は、工場の仕組みや考え方を様々な方向から学び、部門・職種を横断してオールラウンドに対応できる社員を育成する制度です。また、グローバルな活躍ができる社員を育成するための制度も用意しています。

まとめ

「人生100年時代」や「技術革新による変化」など、大きく変化するビジネス環境に対応するために、人材のスキルアップやキャリアアップは企業にとって必須となるでしょう。

リカレント教育は、企業の人材育成として活用できるだけでなく、生産性向上や社員の離職を防ぐことにも効果が期待できます。国の助成金なども視野に入れながら、企業で活用することを検討してみてはいかがでしょう。

また、従業員のモチベーションアップにつながり、企業の成長にもつながるセルフキャリアドックを導入する企業も増えてきています。

こちらの記事では、セルフキャリアドックのメリットや具体的な流れ、導入事例などを紹介しているので、あわせて参考にしてください。

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