採用活動において親が参加するオリエンテーション「オヤオリ」をご存知でしょうか。
本人が入社を希望している場合でも、親が反対しているからという理由で内定辞退や入社後の早期退社に繋がるケースがあります。
そのようなトラブルを防ぐために、企業は入社前の新入社員の親に対してオリエンテーションを行い、企業への理解を深めてもらうのです。昨今の採用活動ではオヤオリのような「親対策」をする企業が増加傾向にあり、親が子どもの就活のカギを握っていることが分かります。
今回は、オヤオリのメリットと共に、その具体例をご紹介しますので、参考にしてください。
オヤオリとは?
オヤオリとは、子どもの就活に親が参加するオリエンテーションのことです。新卒採用の現場では、「子どもの入社に納得しているか」を企業が親に対して確認を行う「オヤカク」と共に用いられることも多くなっています。
実際、親が就職に反対しているからという理由で内定辞退をする学生は珍しくありません。近年の就活において、本人の意思以上に親の意向が重視されつつあるのです。
そのため、親に就職を納得してもらうためにもオヤオリが重要になってきます。オヤオリを行うタイミングには大きく分けて二つのパターンがあるので、それぞれ詳しく見ていきましょう。
就活段階でのオヤオリ
従来の採用活動では学生を対象にしていた企業説明会や就職セミナーですが、最近は保護者を対象にしたものも増えてきました。このように、学生本人だけでなく親世代も就活に関わる動きがあるのです。
親世代が経験した就活と令和の就活は異なるので、アドバイスが役に立たず親子間でのすれ違いを起こしかねません。
学生にとっても、自分が頑張って掴んだ内定を後から親に反対されるのを防げるので、親子で就活をすることにメリットを感じている人がいるのではないでしょうか。
また、オリエンテーション以外にも学生の保護者に向けてパンフレットを制作する企業も増加傾向にあります。
特にIT企業のような世間に名前が知られにくい性質がある企業では、業務内容の一覧や会社の実績、社長の思いを届ける工夫をしています。
内定後のオヤオリ
就活段階ではなく、内定後の学生と親を対象にオヤオリを行う企業も増えてきています。採用担当者からは学生を採用した理由を話して人材育成プランを伝えることができるので、学生本人と親が入社後の姿をより鮮明にイメージできるでしょう。
また、親と学生を会社に招くオリエンテーション以外に、社長や人事担当者が家庭訪問を行う企業や、手紙で採用理由を伝える企業もあります。
「子どものいいところを見つけて採用してくれた」と企業の印象が良くなることでしょう。
オヤオリを行うメリット
オヤオリを行うメリットは企業と親の双方にあります。詳しく見ていきましょう。
内定辞退を防ぐ
画像引用:マイナビ 2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査pdf/p28
内定を辞退する理由に「親が反対しているから」と答える学生は少なくありません。その理由として、親が知らない企業には就職を勧めにくい背景があります。
マイナビが2024年に行った「就職活動に対する保護者の意識調査」でも、「子どもの内定先が自分の知らない企業だった場合、内定を辞退させる」と答える親は全体の0.5%と、前年度の0.4%からわずかながら増加しています。
さらに、同調査において「本当にその企業がいいのかを訪ねる」と答える親は全体の15.1%、「就職活動を続けるように説得する」と答える親は2.4%にも上ります。このように、内定が出てからであっても、より知名度が高い企業への就職を望む親が多いことが分かります。
内定辞退を防ぐためにも、就活段階にオヤオリをして企業と保護者の距離を縮めておくことが重要です。
入社後の離職やトラブル防止
親から就職を反対される可能性があるのは入社前だけではありません。近年増えている過労死や過労による自殺のニュースも親世代を不安にさせる原因になっています。
子どもの出勤時間や帰宅時間から「うちの子は大丈夫かしら?」と不安になり、会社に問い合わせをする可能性があるのです。
入社前に労働時間や残業を認識して、それを納得の上で入社していると分かればこのようなトラブルも未然に防げます。なお、このような事態に陥った時に、企業が「親は口を挟まないでください」などと突き放してしまうとさらに大きなトラブルになる危険があるので注意が必要です。
入社後に親と連携を取りやすくなる
昨今は従業員のメンタルケアが非常に重要となってきており、精神面の不調から休職が必要になってくる人も少なくありません。この時に本人と上司だけでなく、親や産業医が情報交換をすることで復職に最適なタイミングを見定めることも可能になります。
親にもメリットがある
オヤオリは企業だけではなく、親にもメリットをもたらします。子どもが退職し、次の仕事を探すまで実家で過ごすことになると、それだけ親の経済的な負担が増えることになります。
自分の老後だけでも手一杯の状態でさらに子どもを養うことは簡単ではありません。子どもの就職は本人だけではなく親の生活にも影響を与えるので、積極的に就活に参加するケースがあると考えられます。
オヤオリと内定承諾率の関係性
画像引用:ABABAに登録している2025年卒業予定の就職活動生(2024年5月発行)
ABABA総研が2025年度に卒業予定の学生を対象にした調査によると、「内定後に親に反対をされたら辞退する」と答える学生は全体の16%にも上りました。これは、内定が決まった学生のうち6人に1人が親の意見によって内定を辞退するということを意味します。
なぜこれほどまでに親の意見が子どもの内定辞退率を左右するようになっているのでしょうか。
最も身近な社会人は親だから相談しやすい
学生にとって最も身近な社会人は親だといえます。社会人としての先輩である親の意見はとても頼もしい存在です。
就活に悩んでいる時には、前向きな言葉で背中を押してもらえる反面、親に反対だと言われると親に言われるとおりに内定辞退をしてしまうこともあるため、良くも悪くも本人の意思以上に就活に影響を及ぼします。
親が子どもの就職について真剣に考えるように
少子高齢化に伴いひとりっこ世帯が増えてきたことで、以前にも増して真剣に子どもの将来を考える人が増えています。
また、子どもの就職を真剣に考える親だからこそ、子ども自身も自分以上に自分のことを分かっているのは親だと感じて、親の意見を重視する傾向にあるようです。親子関係が以前にもましてフランクな家庭が増えてきたことも一因を担っていると考えられます。
ブラック企業で過酷な労働をさせたくない
働き方改革などで労働環境が見直されていますが、過労死やブラック企業のニュースが後を絶たないのが現状です。自分の子どもがそんな過酷な職場を選んでしまわないか心配になり、就活の段階でどんな企業を選んでいるかを確認する親も多いのではないでしょうか。
オヤオリを行う企業の割合
画像引用:【図11】子供の内定企業から受けた連絡 / マイナビ 2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査(2024/2月発行)
2023年度にマイナビが行った「就職活動に対する保護者の意識調査」によると「保護者向け説明会の案内を受け取ったと」答える親は全体の2.2%でした。
また、「保護者向けの資料を受け取った」と答える人は全体の8.6%と、保護者のおよそ10人に1人はオヤオリをはじめとする親向けの就活対策を受けた経験があります。
オヤオリを受けたと答える割合は2023年度に52.4%で、2018年度では18%、2022年度では48.3%だったことからも、親対策を行う会社が増えてきていることが分かるでしょう。
おすすめのオヤオリ内容
企業が親対策をすることでメリットがあると分かりましたが、具体的にオヤオリでどのようなことをすると良いのでしょうか。
親同伴の会社説明会
内定者とその親に向けて企業説明会を開催します。この説明会では、企業の経営方針やどんな人材を求めているかを保護者が直接確認できます。
学生を通して親に伝えるのではなく、親自身が企業を見学するので、知らない企業の場合にも親に安心感を与えることができるでしょう。
先輩社員との懇談会
保護者からの疑問に先輩社員が答える懇親会では、新入社員に近い年齢の先輩が入社後の小さな疑問にも答えます。
初めて一人暮らしをするのが不安だという親の疑問に対しては、先輩社員が家計簿を見せるといった事例も。家賃をどれくらいにするか、どのあたりに住むのが便利なのかといった、業務以外の不安も相談できる時間があるといいですね。
家庭訪問や手紙
保護者と学生を一堂に集めるオリエンテーションは、人数や時間の問題から開催が難しい企業も多いことでしょう。そのような時には家庭訪問も有効なオヤオリの一つです。
また、新入社員の実家が日本各地にあることから会社見学のようなオヤオリが難しい企業では、手紙で採用担当者からの思いを伝えるという方法もあります。
オヤオリ他社事例
最後に、オヤオリを取り入れている会社の事例を4つご紹介します。
大阪府IT企業
こちらの企業では、職場見学や懇親会を開催しているそうです。あえて平日の夕方に開催することによって、社員が一番多い時間帯を見ることができます。職場を実際に見て就職後のイメージが膨らむことでしょう。
さらに、先輩社員を交えた懇親会も実施しているので、自分の子どもが数年後にこんな感じになっているのだと想像しやすくなります。
採用担当者のような長年勤めている社員以外に、より新入社員の目線に近い先輩社員に意見を聞けるのも懇親会のポイントです。
都内IT企業「アシスト」
こちらの企業のオヤオリでは、内定者から入社5年目までの社員とその親を対象にした「ご家族総会」を開催し、会社や社員が働く環境への理解を深めています。
交通費や宿泊費は企業が負担していることからも、親を招く時間を大切にしていることが分かります。このように継続的なオヤオリによって、企業と保護者の信頼関係をより強くしているのです。
愛知県「メモリー株式会社」
オーガニック商品やペットとの共生社会を目指す事業を行うメモリー株式会社では、内定後の学生と親を対象にオヤオリを行っています。
代表取締役自らが企業のビジネスモデルやコロナ禍の不安定な環境にも左右されない会社の安定性を説明し、若手社員は日々の業務における取組や事業戦略を伝えました。
企業説明会後のフリートークでは、若手社員と話すことで1、2年後のイメージが湧いたとの声が上がっています。さらに会社に移動して実際に働いている環境を見ることで、より具体的に入社後のイメージに繋がったようです。
大阪府「株式会社SKB」
大阪と東京に拠点がある株式会社SKBでは、ホームページに内定者の保護者向けにメッセージを掲載しています。入社後3年間の成長イメージやどんな人になって欲しいかのような熱いメッセージを掲載し、保護者向けの会社説明会や社内見学会は個別で対応しています。
また、子どもの就活に不安を抱いている保護者向けに「就活相談会」も実施しており、採用担当者の目線からアドバイスを送るなど情報交換の場を設ける取り組みも。なお、この保護者相談会は同社の採用活動に応募しない就活生の保護者も対象です。
まとめ
採用活動における親対策のメリットと共に、おすすめのオヤオリをご紹介してきました。
これからの採用活動では、学生本人へ向けた内容と同じくらい適切なオヤオリを行うことが重要になってきます。
今回の記事を参考に、企業と親がコミュニケーションを取り、適切な距離感で関わっていけるといいですね。
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