人事を行う中で避けたいことのひとつとしてあげられるのは、ミスマッチではないでしょうか?企業と求職者に相違が生まれてしまうと、早期離職に繋がります。
離職以外にも、採用後のトラブルを未然に防ぐため活用できるのがリファレンスチェックです。まだ日本では重要視されていませんが、中途採用における合否の判断材料となります。一体どんな調査なのか、どのようなことに気をつけるべきかなど、細かく解説していきましょう。
リファレンスチェックとは
リファレンスチェックは、中途採用実施に伴い、企業が求職者の前職における勤務状況や成績などについて調査することです。
画像引用:株式会社クイック「リファレンスチェックとは?違法性・内定取り消しについても解説」
電話で関係者に問い合わせをするのが主なケースですが、場合によっては書類や面接を行うこともあります。日本語で表すと、前職調査や身元照会などが適しています。類似している調査としてあげられるのは、バックグラウンドチェックです。2つの異なる点を見ていきましょう。
バックグラウンドチェックとの違い
同じ意味で使用されることが多いですが、厳密にははっきりとした違いがあります。前述したように、リファレンスチェックで確認するのは仕事に対する適正や順応性などです。
しかしバックグラウンドチェックは、求職者に関する幅広い情報を得るための調査です。背景調査ともいわれており、経歴を参照することだけに限りません。職歴の他に、SNS、交通違反や犯罪歴、クレジットカードの利用履歴や自己破産の有無などを含めて調査します。
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なぜリファレンスチェックを行うのか?
リファレンスチェックの実施がどんな結果に繋がるのかを解説していきます。
注目されている背景
注目されている理由のひとつとして、人材の減少が挙げられるでしょう。現代の日本では、少子高齢化に伴い人材の獲得競争が激化しています。
また、転職する人が増えていることも挙げられます。このような状況下で採用に失敗があった場合、企業は大きなダメージを受けます。企業にとって重要となるのは、採用後の離職やトラブルを未然に防ぐことです。こうした背景から、ミスマッチが起こらないよう人材を採用するための方法として、リファレンスチェックが注目され始めています。
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リファレンスチェック実施の目的と導入メリット
目的とメリットをそれぞれ見ていきましょう。
主な目的
ミスマッチを未然に防ぐことが、リファレンスチェックを行う一番の目的です。提出書類や応募内容、求職者本人の話に関する事実確認を第三者に行うことで、詐称問題を防ぎます。
メリット
前述したように、詐称やミスマッチを防ぐことで、入社後の活躍に期待できる人材を採用することができるのです。また、雇用の失敗が及ぼす損失も軽減できます。離職を防ぐことは、企業にとって費用・人材ともにマイナスを出さないことに繋がります。
エン・ワールドが行った調査によると、リファレンスチェックの良い点には以下のような回答が挙げられました。
- 面接官が受けた転職希望者の人物像や能力に間違いがないかの判断に役立つ
- 面接で話した内容や応募書類に虚偽や誇張がないかの確認に役立つ
画像引用:エン・ワールド
リファレンスチェック実施企業の割合
実施の目的やメリットはお分かりいただけたと思いますが、では一体どのくらいの企業がリファレンスチェックを実施しているのでしょうか。
画像参照:マイナビ「中途採用状況調査2021年版」
マイナビの調査では2020年にリファレンスチェックを実施した企業は全体の34.4%でしたが、2021年に実施予定と回答した企業は46.3%となり、11.9ptも増加しています。
また、従業員数別にみてみると、実施しているのは301名以上の企業が多いことがわかります。しかし、2021年実施予定数と2020年の実施数の差を見てみると、3~50名規模の企業が16.8ポイント差と一番差が大きく、中小企業でもリファレンスチェック実施の導入を検討していることがわかります。
リファレンスチェックのやり方・パターン
それでは、リファレンスチェックをどう実施するのか、2つのパターンを紹介しましょう。
企業がリファレンス先を探す場合
前職の関係者を企業側が探す方法と、調査会社に依頼する方法があります。
企業側がリファレンス先を探す場合に重要となるのは、求職者の関係者が理解し協力してくれることです。他人の情報を話すことに抵抗がある場合には、リファレンス先として承諾が得られない可能性もあります。
求職者からリファレンス先を紹介される場合
どちらかというとこのパターンの方がスムーズにいくでしょう。リファレンスチェックに答えてくれる関係者を2人以上紹介してもらい、そのあとのリファレンス先とのやり取りは、すべて企業側が行います。
リファレンスチェックを行うタイミング
下記のデータによると、面接後にリファレンスチェックを実施する割合が非常に高いです。書類選考後の企業の割合も多いようですが、調査の工数が膨大となるので避けたいタイミングです。
画像引用:マイナビ「中途採用状況調査2021年版」
また、内定を出したあとに行う企業もありますが、リファレンスチェックの結果、内定を取り消すことになった場合に大変です。内定取り消しは簡単に行えることではないので、最終面接のあとが最も効率のよいタイミングでしょう。
具体的な質問内容・チェックすべき項目
リファレンスチェックで確認するべき項目と、過去に実施されたリファレンスチェックの質問内容をみていきましょう。
チェック項目は主に3つ
1 欠席や遅刻などの勤務状況や、仕事に取り組む姿勢
社会人の基本となる部分なので、第三者からの見え方を知ると採用後の姿が想像しやすいでしょう。
2 コミュニケーション能力や人柄
書類や面接だけでは判断しにくい部分ですが、採用するにあたって重要なポイントになります。接しにくい、言い訳が多いなど、実際に働く姿を見ていた第三者しか知り得ない情報となるので、チェック項目に入れるべき点です。
3 実績や経歴など
売り上げや成果のプラス要素は求職者から得られる情報ですが、リファレンス先にも事実確認をしましょう。また、重大なミスや懲戒処分などマイナスとなる要素の有無も確認します。
実際に行われたリファレンスチェックの質問内容
- 「どのような仕事をしていましたか?」
- 「個人、チームどちらの働き方が適していますか?」
- 「コミュニケーションはうまくとれていましたか?」
- 「決定力、決断力はありましたか?」
- 「また一緒に働きたいですか?」
- 「仕事面、人間性で改善すべき点はありますか?」
上記が、リファレンスチェックで実際に行われた質問内容の一部です。
リファレンスチェックの実施にあたって
あらかじめプラス要素とマイナス要素の基準や境を決めておくと、チェックがスムーズに進み、効率よく合否の判断ができるでしょう。
また、人種や病歴など質問してはならない項目もあります。宗教や愛読書などについても配慮すべき内容です。差別に繋がるような質問は避けてください。
リファレンスチェックを行う際の注意点
行えば求職者のこれまでの経歴がわかり、どんな人物か明確化できるというリファレンスチェックですが、行うにあたって注意する点もいくつかありますので、しっかりと把握しておく必要があります。
個人情報保護法違反に気を付ける
リファレンスチェックは、個人情報保護法の第16条に下記のように記載されているため必ず求職者の承諾を得た状態で行いましょう。
個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。引用:個人情報保護法
同意を得ないままリファレンスチェックを行った場合、個人情報保護法に対する違反となります。また、リファレンス先から得た情報は、求職者の個人情報となるので扱いには十分注意しましょう。
なりすましに注意する
本来、リファレンスチェックに対応してもらう予定の推薦者となって、候補者に優位になるようにするのが「なりすまし」です。候補者に何か後ろめたいことがあった場合に行われることが多く、なりすましのパターンには以下の2つのパターンが存在します。
- 候補者自身がなりすます
- 企業が指定していない第三者がなりすます
推薦者のなり手が見つからなかった場合、候補者自身が推薦者になりすます可能性があります。経歴詐称など悪質で重大な場合などが理由になります。
2つ目のパターンでは、通常企業から指定することが多い推薦者ですが、その指定に該当しない全く別の第三者が推薦者としてなりすますといったパターンです。第三者とは友人知人だけではなく、なりすましの代行業者も存在します。
なりすましを見抜く方法
せっかくリファレンスチェックを行うのだから、なりすましに騙されたくないですよね。なりすましを見抜く方法は主に以下の方法があります。
- 電話やメールをつかって、推薦者の身元を事前に確認した上で推薦者自身のことを質問する
- 推薦者しか知りえないような深い情報について質問する
- オンラインサービスを活用してなりすまし防止機能を利用する
採用候補者にとってリファレンスチェックは少しハードルが高いため、安心して行ってもらえるように、依頼しやすい推薦者を選出するなどして不安感を払しょくすることが、なりすましの抑止につながっていくでしょう。
自社で行うべきか?外部に依頼すべきか?
自社、依頼それぞれにメリット・デメリットがあるため、希望にそった方法で実施しましょう。
自社で行う場合
自社で実施する際にメリットとなるのは、コストがかからない点です。外部に委託する場合には依頼費用がかかるため、採用における予算によっては、リファレンスチェックにかけるコストが厳しい場合もあるでしょう。
しかし、求職者の同意を得ること、前職場の協力を得ること、個人情報の取り扱いに注意することが絶対条件となるので、徹底したリスク管理が必要です。
外部に依頼する場合
リファレンスチェックの調査会社を利用します。調査費用は発生しますが、リファレンスチェックを行う人数や調査項目を減らすなど委託する内容を絞ることでコストを最小限に抑えられます。
また、調査会社に委託することで自社がリファレンスチェックにかける時間も少なく済むので、合否の判断までに時間がない場合やスピーディーなチェックを求める場合などに便利です。
リファレンスチェックを断られたらどうすればいい?
リファレンスチェックは正当に拒否できるものなので、強制的に行うことはできません。
柔軟に対応する
リファレンスチェックを断られる場合には、さまざまなパターンがあります。
求職者本人が同意しない場合、リファレンス先である前職場が拒否する場合、リファレンス先の担当者から承諾が得られない場合です。理由もさまざまありますが、リファレンス先の前職場、担当者に拒否された場合には、別の担当者がいないかを確認してみましょう。
求職者からリファレンス先を紹介してもらう場合は、あらかじめ複数のリファレンス先を紹介してもらい、拒否される事態に柔軟な対応ができるよう準備しておくとよいです。
ツールを活用する
さらに、拒否を軽減する方法としては、リファレンスチェックをサポートしてくれるツールが役立ちます。
月額料金でサービスを提供しているものが多く、オンラインで質疑応答のやり取りを行います。リファレンス先が手間と時間の問題でリファレンスチェックに協力ができない場合は、手軽なサービスを通してなら可能なこともあるでしょう。
企業側にとっても、求職者の数が多くリファレンスチェックの回数が膨大になる場合には、ツールで実施することが効率のよい方法となります。また求職者から同意を得られなかった際に、どうしても調査を必要とする場合は、バックグラウンドチェックを行いましょう。
まとめ
リファレンスチェックの実施は、中途採用におけるミスマッチを防ぎ、企業にとってプラスとなる人事を行うことに繋がります。
早期離職を軽減したい場合や、より確かな情報で企業に合った人材を獲得したい場合などの解決策になるでしょう。中途採用の判断材料として、リファレンスチェックを導入してみてください。
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