玉突き人事とは?人事異動との違いや注意すべきポイント

玉突き人事とは?ジョブローテーションとの違いや注意すべきポイント

玉突き人事とは、空いてしまった社内のポジションに別の社員を異動させて補充し、別の社員の異動によって空いてしまった別ポジションに、さらに他の社員を異動させて穴埋めする方法を指します。

急な離職や、採用活動が難しいときの欠員時に行われる玉突き人事ですが、後先考えずに行うと、社内にひずみが生まれる可能性もあります。

今回は、玉突き人事と人事異動やジョブローテーションとの違いや、玉突き人事を行う際の注意点を解説します。

玉突き人事とは

玉突き人事とは

玉突き人事とは、本来は異動させる必要がない人材を、社内で空いたポジションに異動させて穴埋めする方法を指します。計画的な人事異動・ジョブローテーションなどとは異なり、あくまでも「欠員が出て回らないから、とりあえず他の社員を異動させよう」と、救急措置として人員を補充します。

無計画に人材を動かすことで、異動を指示された社員のいたポジションはがら空きとなり、そこを埋めるために玉突き事故のように複数の人事異動が発生してしまいます。

玉突き人事とジョブローテーションの違い

まずは、玉突き人事とジョブローテーションの違いを確認してみましょう。

ジョブローテーションとは、数か月~半期、数年に1度など定期的なサイクルで、社員をさまざまな部署に異動させていく人事異動の方法です。

ジョブローテーションでは、営業職から技術職、技術職から販売職など、あえて関連性を持たない多様な部署に配置していくことで、多角的な視点やスキルをみにつけ、キャリアを広げていくなど社員の能力開発のために行われる人事制度です。

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ジョブローテーション

一方、玉突き人事は、一時的な欠員を補うために行われる異動のため、ジョブローテーションとは目的がまったく異なります。

通常の人事異動との違いは?

人事異動とは、会社の命令にそって社員の配置を変えたり、昇進・昇格したりするなど、地位や勤務状態を変更するすべての行為を指します。

部署異動のみが人事異動ではなく、転勤や出向、役職への任命や昇進、降格など、人事異動が指すものは幅広いです。

玉突き人事は、人事異動の一種ではありますが、人事異動のなかでも非常に突発的に行われるものなのです。

玉突き人事のメリット

急な欠員に対処するために、無計画に行われる玉突き人事ですが、見方を変えるとメリットとなり得る点もあります。この章では、玉突き人事のメリットとは何かを解説します。

欠員補充

玉突き人事の最大のメリットは、欠員をスピーディーに補えることです。一般的に、人事異動は社員面談を重ね、本人の能力や希望、中長期的なキャリア計画の聞き取り、事業部の状況などを加味しながら長期的に決めていきます。つまり、通常の人事異動では、スピード感をもって欠員補充を行うことは難しいです。

また、人員不足の際に社外から人材を集める場合、最短でも1か月ほどは時間がかかるでしょう。玉突き人事であれば、極端な話ですが「明日から異動」という早期対応が出来てしまうケースもあるのです。

馴れ合いをなくし緊張感をもたらす

玉突き人事のメリットとしては、急な人事異動の発生によって、社内に適度な緊張感をもたらすことです。

長年、新規採用も行わず人事異動も発生しない部署では、社員同士の馴れ合いで仕事が雑になったり、不正が横行したりするケースも少なくありません。不正までは行かなくても、お局社員が長く居座ってしまったり、その部署独自のルールが無駄に増えてしまったりすると、業績に悪影響を及ぼす可能性もあります。

新たな人が一定期間に出入りすることで、職場に適度な緊張感を与えることは、こういった馴れ合いの職場体質を直すのに効果的です。

組織のコミュニケーション活性化

社内コミュニケーションに課題を感じる会社の多くは、自部署内のコミュニケーションよりも、他部署・他部門とのコミュニケーションに悩みを抱えています。そこで、組織のコミュニケーションを強制的に促すのが玉突き人事です。

玉突き人事が起こることで、部署を超えたコミュニケーションが連鎖的に発生します。今まで全く関わりの無かった部門の人材を受け入れたり、予想外の人事配置に適応したりすることで、硬直的だった組織文化が自然に活性化するケースもあるでしょう。

玉突き人事がなく、計画的な人事異動だけ実施していると、どうしても「いつものメンバー」が集まってしまったり、似たようなキャリアパスの人材だけで一部署を構成しがちです。職場のマンネリ化をなくし、強制的に他部門・他部署との会話を発生させるには、玉突き人事も有効な方法なのです。

玉突き人事のデメリット

デメリット

玉突き人事は、その場しのぎの措置に見えつつも、見方を変えればメリットも多いことがわかりました。しかし、多くの場合、玉突き人事は社員の不満を大きくさせる注意点があるのも事実です。

改めて、玉突き人事のデメリットを確認していきましょう。

離職の要因となる

会社都合の玉突き人事を続けていくと、社員の不満や負担がつのり、離職につながるリスクは大きいです。玉突き人事で異動を命じられた本人だけでなく、受け入れ先の部署や、異動した社員が所属していた部署など全方位に負荷がかかるでしょう。

異動した社員本人から見ると、「自分の希望は優先してもらえない」「どうせ欠員補充なら誰でも良かったんだ」「もとの部署でやりたい仕事があったのに」など、さまざまな不満を感じる可能性があります。

受け入れ先の部署では「こんな社員を異動させられても教えるのが手間だ」と感じ、異動元となった部署では「勝手に貴重な人材をとられた、空いたポストは誰が埋めるんだ」と文句を言うかもしれません。こういった不平不満が積み重なれば、多くの離職を生む要因となるため注意が必要です。

ミスマッチにより業績悪化をもたらす

玉突き人事で異動した社員のミスマッチが大きく、配置先でうまく力発揮できない場合、異動した本人だけでなく会社全体に悪影響を及ぼします。

適材適所が実現せず、社員のポテンシャルが発揮されないまま事業を続けていけば、やがて会社の業績は傾くのは間違いありません。

玉突き人事を行うときに注意すべきポイント

玉突き人事を行うときに注意すべきポイント

玉突き人事はデメリットがあると理解しながらも、どうしても避けられない場合もあるでしょう。この章では、玉突き人事を行う際に注意すべきポイントを紹介します。

人事異動(玉突き人事)に関する規則を整える

どんなに急な欠員補充であったとしても、人事異動は会社主導で好き勝手に行っていいものではありません。人事異動のNG事項は法律で定められており、それに違反すると会社が訴えられてトラブルに発展する可能性もゼロではありません。

法律の範囲内で玉突き人事を行うためにも、自社の人事異動の規則を整えて、社員に周知しておくようにしてください。

人事異動が認められないケース

  • 業務上の必要がない
  • 労働条件が著しく低下
  • 不当労働行為にあたる など

就業規則や労働契約にて、配置転換の規定がない場合「労使の合意がなかった」とみなされて、社員から人事異動を拒否されるケースもあります。必ず顧問社労士など専門家に確認し、自社の人事制度を整えておきましょう。

異動目的を明確に伝える

玉突き人事を行う際は、どんなに急な異動依頼であったとしても、可能な限り時間を割いて異動目的を本人に説明する姿勢が重要です。どうして急な異動になってしまったのか背景を伝え、会社側に落ち度があれば謝罪の意を示し、複数いる社員の中でなぜその人を選んだのか、期待値を伝えるようにしましょう。

また、配属先の管理職や、直属の上司、一緒に働くことになる周囲の社員にも同様に説明をします。急な異動で穴が開いてしまった部署にも、次はどういう人材をあてがうのか説明し、可能な限りポジティブな理由や取り組み姿勢を見せるのが重要です。

どんなに急な玉突き人事であっても、伝え方や配慮次第で、スムーズに行くこともあるためです。

社員の希望するキャリアパスを事前に把握する

玉突き人事がいつ起きるか分からないからこそ、事前に全社員の希望するキャリアパスやスキル、特性を把握しておくことが大切です。今日明日で、どうしても玉突き人事を決定しなくてはならない事態に陥ったとしても、日ごろから社員の希望を聞き取って把握していれば、最大限に本人の意思を配慮した配置転換ができるはずです。

また、どうしても本人の希望と一時的に反れてしまったとしても、社員の希望や意思を理解していれば、適切な声掛けや交渉ができるようになるでしょう。

玉突き人事のケーススタディ

玉突き人事のケーススタディ

最後に、玉突き人事にうまくいった事例をケーススタディとしてご紹介します。

丁寧な引継ぎにより玉突き人事がスムーズにいった事例

人事部のAさんは、100名規模の会社で総務・人事を担当しています。万が一、急な欠員が出たときの人事異動に備えて、各社員との人事異動の内容を再確認することにしました。自社の就業規則を確認したところ、人事異動の範囲について明確に記されていなかったため、顧問社労士に相談して人事異動の項目を追加することにしました。

また、100名規模になるまで人事システムを導入しておらず、全社員の情報がExcel管理のままでした。Excel管理の場合、入社時から情報が更新されていない懸念があったため、タレントマネジメントシステムを導入し、社員の最新情報や、今後の希望のキャリアパス情報などを更新できるよう整えました。

この2点を重視して備えておいた結果、突発で欠員が出た際もあわてずにタレントマネジメントシステムから異動対象者を洗い出し、就業規則を基に異動の説明を行い、複数名の配置転換をトラブルなく終えることができました。

まとめ

玉突き人事が無計画に起こると、社員の不満がつのり、離職や業績低下となる可能性は高いです。しかし、人材不足の現在、どの会社でも玉突き人事を実施せざるを得ない状況になるかもしれません。

急な欠員の際に慌てないためにも、事前に就業規則や人事制度を整え、玉突き人事の背景や人選目的を本人に丁寧に説明しながら対応すると良いでしょう。

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