多くの企業が、自社の業務にふさわしい人材を確保するためにさまざまな採用条件を設定しています。
とはいえ、どのような採用条件を設定すれば良いのかわからない企業も多いでしょう。
そこで今回は、採用条件に必要な項目や具体的な条件の決めた方などを解説していきます。採用がうまくいっていない、採用条件の設定の仕方がわからないという人事担当者はぜひ参考にしてみてください。
採用条件とは
採用を成功させるには、企業に長く勤め活躍してくれる人材を確保する必要があります。そのためには採用条件を提示し、自社に適切な人材を採用することが大切です。
採用条件が定まっていないと、面接官の応募者に対する評価にばらつきが出る上に、ミスマッチや早期退職が起こりやすくなり、採用にかけた時間やコストなどが無駄になってしまう可能性があります。
採用条件と採用基準の違い
採用条件と似た言葉に「採用基準」があります。どちらの言葉も「採用において人材の合否を適切に判断する基準」という意味合いで使われているため、大きな違いはありません。
書類選考、適性検査、採用面接のように、企業が行う採用活動は多岐にわたります。 多大な時間や労力をかけておこなう採用活動では、雇用後のミスマッチや早期退職といったトラブルは避けたいものです。採用活動を始める前に、自社の採用基準を設定する[…]
採用条件に必要な項目
採用条件に必要な項目は、学歴・経歴・資格・スキルなど、さまざまあり、新卒採用と中途採用では重要な項目が異なります。
以下では、新卒採用・中途採用それぞれで重要な採用条件を見ていきましょう。
新卒採用で重要な採用条件
新卒採用では、育成を前提として採用条件を定める必要があります。
社会人としての経験や資格、知識を問わない分、人間性や向上心などが重要な採用条件となるでしょう。新卒採用で重要な採用条件を以下にまとめました。
主体性
採用における主体性とは「さまざまな仕事に対し積極的に自ら行動できる」ことです。多くの企業は、上司からの指示がなくても自ら考え積極的に動ける人材を求めています。このような人材は、将来的に企業やチームを牽引できる人材になる可能性があるため、企業としても大切にすべきでしょう。
人間性
企業にとって必要なスキルや資格を有している人材でも、人間性が社風に合わなければ早期退職につながる恐れがあります。例えば「正確性が求められる部署の採用において、集中力に欠ける人材を採用してしまった」などのようにミスマッチが起こる場合もあるため、求める人間性についても明確にしておくことが必要です。
向上心
人間性と同様に、いくら高度な知識や取得が難しい資格を有していても、向上心がなければ早期退職につながる恐れがあります。人材が持つ、仕事への熱意や将来的なキャリア設計などを聞き出しましょう。
価値観
新卒採用においては、人間性・向上心と同様に、価値観についても能力や資格より重視することが大切です。
いくらやる気があって優秀な人材であっても、うまく職場や仕事に馴染めないようであれば、仕事において重視している価値観が違う可能性があります。人材と企業の価値観をすり合わせることで、入社後の定着率をあげることができるでしょう。
コミュニケーション能力
一般社団法人 日本経済団体連合会が2018年に実施したアンケートによると、新卒採用において企業は人材のコミュニケーション能力を最も重視していることがわかっています。
社内はもちろん、社外の人とも円滑にコミュニケーションが取れ、良好な信頼関係を築ける人材を企業は期待しているのです。
中途採用で重要な採用条件
すでに働いていた経験を持つ中途採用では、即戦力として働ける人材確保に重点を置いています。
入社してすぐに活躍できる知識、他の社員ともうまくやっていける人間性などが重要な採用条件となるでしょう。中途採用で重要な採用条件を以下にまとめました。
経験
即戦力を必要としている中途採用では、これまでの経験や実績を重要視する企業が多い傾向にあります。ただ「経験」と一口に設定するのではなく、「データ分析の知見がある」「法人営業の経験がある」などのように、部署が求める具体的な経験を設定するのがおすすめです。
資格
部署によっては、資格がないと業務が行えない場合があります。採用条件に資格を設定する場合は、必須条件なのか、あったほうが望ましい条件なのかを具体的に提示するようにしましょう。
知識
経験や資格と同様に、中途採用においては知識も重要視されています。例えば「WordやMicrosoft・Excelを使用して一般事務ができる」「服飾に関する知識を有しており、アパレルでの接客ができる」などです。企業の業務に関わる必要なスキルを具体的に提示してあげましょう。
人間性
いくら経験や知識が必要な中途採用とはいえ、人間性、つまり思いやりや気遣いの心がない人材を採用してしまうと、社内はもちろん社外の人ともうまくコミュニケーションを取れない恐れがあります。面接などで、質問に対ししっかりと回答できているかをチェックしてみましょう。
意欲
人間性と同様に、いくら優秀な人材でも意欲がなければ、成果を出せずに早期退職になったり一緒に働く社員のやる気を削いでしまったりする恐れがあります。そのため、中途採用であっても経験や知識と同じくらい仕事に対して意欲的な人材が好ましいです。
採用条件の決め方・具体的な設定方法
採用条件は、新卒採用でも中途採用でも大切であることがわかりました。
では、どうやって採用条件を決めたら良いのでしょうか。以下では、採用条件の具体的な設定方法について解説していきます。
社内で情報収集する
採用条件を決めるために、まずは企業にとってどのような人材が必要なのかを社内でヒアリングし情報収集しましょう。
社員にヒアリングする内容は、必要な知識・求められる価値観や性格・具体的な業務内容・採用人数・職場環境・育成環境など多岐に渡ります。人事担当者がイメージしている人材と、現場が実際に欲しい人材がマッチしていないこともあるため、あらかじめ社内で聞き込みをして採用のミスマッチを防ぎましょう。
また、経営層には今後の成長ビジョンや経営戦略などを加味した上で、どのような人材を採用したいか聞き込みをするのがおすすめです。
情報収集した内容を整理する
社内でヒアリングをしたら、集めた情報の内容を整理していきます。ヒアリングした内容は、能力面・人物面・属性面に分けると良いでしょう。
- 能力面:経験・知識・スキル・資格など
- 人物面:人間性・性格・価値観・仕事観など
- 属性面:性別・年齢・勤務時間・休日など
全ての条件が当てはまる人材がいれば問題はありませんが、タイミングよくそのような人材が現れることは難しいため、3つに分けた採用条件をMUST(絶対条件)とWANT(十分条件)に分け、絶対的な条件と希望する条件などのように優先順位をつけるのがおすすめです。
ターゲットを明確にする
情報収集した内容をまとめたら、求める人物像を明確にします。
1つ前の見出しで解説した、能力面・人物面・属性面から設計していきましょう。
また「役職を目指したい」「スキル向上を目標に転職」など、応募した背景にまで目を向けて構築するのも良いでしょう。
評価項目を決める
ターゲットが明確になったら、評価項目を決めましょう。
企業独自に定めた評価項目に沿って採用を進めれば評価の一貫性が保たれ、ブレない採用が実現できるでしょう。
就活・転職市場の最新データを把握する
就活・転職市場にも流行りがあります。特に、求人倍率や転職希望者数は変動しやすいため、常に最新のデータや現状を把握しておくことが大切です。
また、人材獲得競争が激化している昨今では、競合他社の動向や採用条件などについても調べて把握しておく必要があります。
さらに、働き方改革に取り組んでいるなど、最近話題のワードを出すことも人材に安心感を与えることになるでしょう。
コンピテンシーモデルを作成する
就活・転職市場の最新データを把握できたら、コンピテンシーモデルを作成しましょう。
コンピテンシーとは、高い成果や業績を出す人材に共通して見られる行動特性です。人材の採用において知識や成果に目が行きがちですが、成果を出すまでの思考や行動に着目することで、理想の人材に出会いやすくなります。コンピテンシーモデルを作成するにはまず、在籍している優秀な社員を選び、調査した行動特性から重要な項目を選定しましょう。
次に、選んだ社員にヒアリングをして成果を出した際の考え方や行動を確認します。このように得た行動特性をコンピテンシーモデルとし、採用条件をまとめていきます。
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採用条件の例
以下では、実際にどのような職種の企業がどのように採用条件を設定しているのか、例を見ていきましょう。
中小規模の企業における例
業種:情報通信業界
採用予定人数:5人
Webサービスのサーバサイド開発経験1年以上
複数名でのアジャイル開発手法を用いたチーム開発経験・十分条件
Webサービスの企画・開発・リリースに携わった経験がある
Rubyでの開発経験(趣味・実務問わず)
・求める人物像
新しい技術に進んでチャレンジしたいと思える人
この時「Rubyでの実務経験3年以上」のように条件を提示しがちですが、経験年数だけではスキルを判断できません。
経験年数が長くても既存ソースをコピペしていた人と、経験年数は浅いけれどサービスの企画から開発、リリースまでの経験を持つ人では、企業の期待度が違うでしょう。
中小企業の企業における例2
業種:情報通信業界
採用予定人数:1〜5人
元々「実力」を重視して採用していた、SEOコンサルティングやウェブ記事作成支援をメインとしている中小企業では、有名企業で働いていた人材を無条件に確保していました。しかし、組織として向かう方向性がそろっていなかったために、創業2期目で一気に社員が辞めてしまったのです。
その危機をきっかけに「価値観」を重視した採用へと転換させたことで売り上げアップにつながりました。同じ価値観を共有しながら業務を続けたことによって生産性が上がったのでしょう。
大規模の企業における例
業種:製造業界
採用予定人数:160人
製造業の受発注プラットフォームを提供している大規模の企業では、スキルや経験よりも「企業への共感」を採用条件に掲げて採用活動をしています。
目に見える条件ではない分、大切にしていることを理解してもらえるように企業側が人材へ説明をし、そこに賛同する方が応募する仕組みを作ることで「適切な人材採用」を実現しているのでしょう。
採用条件を決める時の注意点4点
続いて、採用条件を決める際に気をつけたい注意点を4点紹介していきます。
新卒採用と中途採用で採用条件を変える
前述したように、新卒採用と中途採用では重要となる項目に違いがあります。そのため、新卒採用と中途採用で採用条件を変える必要があるのです。
新卒採用の場合、実務経験を問わない代わりに性格や人柄を重視して採用条件を設定する必要があります。中途採用の場合は、即戦力になることを期待して採用するため、人柄に加えて経験や知識を重視して採用条件を設定するのが望ましいでしょう。
就職差別と判断される項目は入れない
厚生労働省が定めている「公正な採用選考の基本」には、「応募者の適性や能力のみを基準としておこなうこと」「応募者の基本的人権を尊重すること」が基本的な選考方法として定められています。
そのため、宗教・政党・労働組合などの思想信条に関わる事項や、出生・家族・住居・生活環境などの本人に責任のない事項、さらには障害や性別などを合否の理由にすることを禁止しているのです。合否に関しては人材の能力やポテンシャルから判断するようにしましょう。
現場や経営層の意見を聞く
前述したように、採用担当者が採用したい人材と現場や経営層が欲しい人材は必ずしも一緒とは限りません。新に採用された人材と働くのが現場の社員で、採用にかかる時間やコストは経営層が管理している場合もあるでしょう。
そのため、人事担当者だけで採用活動を進めていくのではなく、現場や経営層の意見を取り入れていくことが重要です。みんなの意見を取り入れた採用は、会社にとって本当に必要な人材を確保することにつながるでしょう。
採用条件の見直しを柔軟に
採用条件を定めて採用活動を始めても「採用条件に合った人材が見つからない」「最終選考まで人材が残らない」などという問題が発生する恐れもあります。そのような時には、思い切って採用条件を見直してみましょう。
企業が思ったよりも条件のハードルが高かったり、ターゲットの設定が曖昧だったりすることから、採用条件に見合った人材に届いていない可能性があります。もちろん、決して譲れない条件はあると思いますが、採用活動が円滑に進んでいない場合は採用条件の見直しをしてみるのもおすすめです。
まとめ
採用条件は、採用に公平性・一貫性をもたらすための大切な基準です。また、本当に必要としている人材を確保するためにも欠かせません。
自社に適切な人材を確保できない、ミスマッチや早期退職を防ぎたいという人事担当者は、ぜひこの記事を参考に現場や経営層の声を聞きながら、採用条件の設定や見直しを実施するようにしましょう。