ジョブリターン制度とは?メリット・デメリットと導入を成功させるポイント

ジョブリターン制度

労働力の不足にともなう人材不足の解消のひとつとして注目されているのが「ジョブリターン制度」です。

今回はジョブリターン制度がどのようなものなのかを解説しながら、導入のメリット・デメリット、導入する際のポイントについて詳しくみていきます。人材不足でお困りの方はぜひ参考にしてみてください。

ジョブリターンとは?制度の概要について

ジョブリターン制度は「カムバック制度」ともいわれ、出産・育児や介護、配偶者の転勤など理由で、退職を余儀なくされた社員を本人の希望により再雇用する人事制度のことをいいます。

やむを得ない正当な退職理由には結婚や妊娠、キャリアアップによる留学も含まれます。

なぜジョブリターン制度が注目されているのか

ジョブリターン制度が注目されている背景には、企業の人材や労働力の不足があります。

以前の日本では、入社してから定年まで働き続けるという終身雇用制度に沿った働き方が主流でした。ところが近年では、入社後そう年数が経たないうちに転職もしくは退社するケースも珍しいことではなく、多くの企業で人材不足が深刻な課題となっています。

ジョブリターン制度を活用することで、元社員・元従業員は働いていた職場に戻ってきやすくなる一方、企業側は再雇用者に対しては一から教育をする必要がありません。

そのため、教育コストの削減や貴重な即戦力の確保につながるなど、両方にメリットがあります。採用方法の一つとしてジョブリターン制度を導入することは、人材不足を解消するためのキーになると期待されています。

アルムナイ制度との違い

ジョブリターン制度と似たものとして、アルムナイ制度という採用方法があります。

ジョブリターン制度はやむを得ない理由で仕事を続けられなくなって仕事を辞めた人が対象でしたが、アルムナイ制度は転職などの理由による企業の退職者・離職者を再雇用する制度のことを指します。
アルムナイ制度における退職者には定年退職した人は対象に含まれません。転職や起業を理由として退職し、他の仕事でキャリアを積んだ人を対象にしているのが特徴です。

ジョブリターン制度とアルムナイ制度は目的が同じですが、アルムナイ制度は退職者向けのコミュニティがつくられ、そのコミュニティに対して継続的にコミュニケーションを図っていく点で違いがあります。

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奨励金や助成金を設けている自治体もある

ジョブリターン制度を整備している企業に奨励金を設けている自治体もあります。

東京都ではジョブリターン制度を導入する中小企業を支援するため、「育児・介護からのジョブリターン制度整備奨励金」を支給しています。要件を満たした企業がジョブリターン制度を整備し、奨励事業に取り組むことで、1社あたり20万円が支給されるのがこの制度の特徴です。ただし、エントリーが予定者数を超えると抽選になるので注意が必要です。

東京都ではこの支援により、働く意欲をもつ元社員の能力を発揮できる環境を積極的に整備し、人材不足の解消に努めています。

働く側にもメリットがある

ジョブリターン制度は働く側にもメリットがあります。

多くの場合、企業側は再就職者が働きやすいよう、多様な雇用形態や再雇用後のキャリア形成ができる環境を用意するでしょう。その場合、働く側はプライベートと仕事の両立がしやすい雇用形態で働くことができ、長期的に本人の望むキャリア形成がしやすくなると期待できます。

また、留学などのキャリアアップが理由で退職した再就職者の場合、離職期間に培った能力を発揮できる場を企業が提供することで働く側のやる気のアップにつながります。

ジョブリターン制度のメリット(企業側)

ジョブリターン制度を活用することで期待できる企業側のメリットはさまざまです。具体的には以下のようなことがあげられます。

  1. 採用・教育コストの削減
  2. 離職後のスキル活用
  3. 企業のイメージアップなど

詳しくみていきましょう。

採用・教育コストの削減に役立つ

採用段階における求人媒体への掲載や説明会実施などのコストは、人材雇用にかかる経費の中でも大部分を占めます。ジョブリターン制度で人材を募集する場合、告知としては広報紙での周知や退職者向けのウェブサイトの整備をする程度で済むため、採用における費用削減が期待できるでしょう。

また、採用する企業側は再雇用を希望する元社員の在籍時の様子について情報があり、元社員も社内の基本的な知識や企業風土などをすでに知っています。

そのため、再入社した際のミスマッチが起こりにくく、その後のコミュニケーションがスムーズに進むと期待される点もメリットです。さらに、再雇用が決定した際、雇用側は元社員に対して業務を一から教育する必要がないため、研修にかかる金銭的・時間的コストの削減が期待できます。

他社で得たスキルを活かしてもらえる

ジョブリターン制度で元社員を再雇用した場合、他社で得たスキルを自社で活かしてもらえるというメリットがあります。

自社を退職後に他の企業で働いていた場合、今までになかったスキルや経験、資格を習得している可能性もあるため、それを自社の課題解決に活かすことができます。企業にとってはそれがよい刺激となり、今後のサービスの向上や業績改善につなげられるのもメリットのひとつでしょう。

また、再雇用を希望する元従業員は仕事に対するモチベーションが高い傾向にあるため、採用後の活躍に期待ができます。

社員・社外に対しイメージアップが図れる

ジョブリターン制度のメリットのひとつとして、社内・社外に対してイメージアップが図れることが挙げられます。

育児や介護の事情による退職からの再雇用は、女性が活躍しやすい企業として社内外へのアピールにつながります。

子育てや介護との両立に不安を感じている女性は少なくありません。やむを得ない事情で退職してしまった方にとって戻れる職場、戻ってきたいと思える職場があるのは安心です。

ジョブリターン制度導入のデメリット

ジョブリターンの制度にはメリットが多く存在しますが、一方でデメリットもあります。企業側、再雇用される側が受けるメリットが多い一方で、周囲の現職社員にデメリットをもたらす可能性があります。詳しくみていきましょう。

退職しやすい雰囲気が高まる傾向

ジョブリターン制度によるデメリットとして、周囲の現職社員の安易な退職を誘発してしまうケースがみられます。一度辞めても再雇用してもらえるから、という理由で仕事に対するモチベーションが維持できず退職につながってしまう恐れもあるのです。

それを防ぐために制度の目的を明確にした適切なルール化が必要になってくるでしょう。

現職社員が不満を感じる可能性

ジョブリターン制度を活用し再雇用された社員に対し、現職社員が不満を感じる可能性が出てくるのもデメリットのひとつです。

ブランクがあるにもかかわらず、処遇が現職社員と同等であったりそれ以上であったりすると、頑張り続けている社員に対して不公平感が出てしまいます。再雇用の社員がどのような基準で評価されるべきなのか、勤務している人が納得できるルール作りが重要になるでしょう。

ジョブリターン制度導入を成功させる7つのポイント

ジョブリターン制度をスムーズに導入できるよう、成功させるための7つのポイントを紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。

ジョブリターン制度を導入する目的をはっきりさせる

ジョブリターン制度を導入するうえでもっとも重要なことは、取り入れる目的をはっきりさせることです。自社でのジョブリターン制度導入後、どのような結果を得たいのかを明確にしておきましょう。

再雇用の条件・ルールを明確にする

再雇用の条件・ルールを明確にし、希望すればだれでも再雇用してもらえるわけではないということを認識づけましょう。具体的には退職の理由、退職期間や退職前の評価などです。

例えば、以下のようなことで、離職率を抑える効果も期待できるでしょう。

退職理由については妊娠・出産や育児、配偶者の転勤によるものに限定し、なおかつ勤続年数一定以上の社員を対象とするなどの適切な条件やルールを設ける

教育体制を整える

再就職する人は現場から離れて数年の期間が経っているため、その間にアップデートされた業務の知識や社内のルールなどを再度確認する必要が出てきます。教育体制を整えることは、再雇用される側の離職前とのギャップの解消や、現社員の再雇用社員に対する不安の解消にも役立ちます。

雇用形態のバリエーションを増やしておく

再雇用を希望する元社員がジョブリターン制度をより使いやすいものにするためには、再就職者のライフスタイルに合わせた、可能な限りの条件を提供する必要があります。雇用形態のバリエーションを増やしておくことで、長期的な人材確保につながるでしょう。

例えば、子どもが小さいうちはパートでの勤務、ある程度大きくなり手がかからなくなったらフルタイム勤務など、幅を利かせることでより長期的な雇用の確保が期待できます。

また、在宅勤務制度やフレックスタイム制度、育児や介護の理由で休暇を取得できる制度などの充実もポイントになるでしょう。復職後にもキャリアの形成ができるように多様なキャリアコースを選択できるような支援をすることで、より効果的なジョブリターン制度の活用になるのではないでしょうか。

現職社員のモチベーションアップにつながる制度を整える

長期にわたり勤務している現職社員との間に不公平感が出ないよう、現職社員のモチベーションアップにつながる制度を整える必要があります。給料面や役職、昇進面での処遇においては、現職社員への配慮が必要です。

退職者とのつながりを確保しておく

ジョブリターン制度の導入にあたり大事なポイントのひとつが、退職者とのつながりを確保しておくことです。退職者とコミュニケーションを継続できる連絡手段を確保しておくことでジョブリターン制度の案内を出しやすく、人手が足りない時の人材確保にもつながります。

再雇用の登録者に対して定期的に案内を送り、復職希望の調査や復職者の体験談などを送付することで、再雇用に対するモチベーションを上げていくという方法もあります。

制度開始時には積極的に周知する

ジョブリターン制度開始時には積極的に社員や退職者に周知をしていきましょう。せっかくジョブリターン制度を導入しても制度を知らない人が多ければ使ってもらえません。

導入の際には、必ず全社員に告知を行いましょう。社員からの疑問に答えられるよう、問い合わせ先や手段についても記載しておくことで、社員の制度理解も深まるでしょう。

専用ウェブサイトやSNSなどを有効に活用することで効果アップも期待できます。

ジョブリターン制度を導入している企業を紹介

ジョブリターン制度を企業はどのように活用しているのでしょうか。実際に導入している企業と導入事例を紹介していきます。

大同生命保険株式会社

経営者とそこで働く人たちに安心を与える社会をつくることを目標に、保険商品を提供しているのが大同生命保険株式会社です。

大同生命格式会社は家庭と仕事の両立支援として、ジョブリターン制度を導入しています。勤続年数が1年以上で、育児・介護・配偶者の転勤などの理由で退職した方を対象に選考を行い、再雇用をおこなっています。

また、ジョブリターン制度のほか短時間勤務制度なども含めた両立支援制度の利用方法をまとめた資料の作成や、制度利用に関する疑問、復職に対する不安などを解消するための相談窓口が設置されています。制度が利用しやすい環境が整備されている点もポイントです。

大成建設株式会社

大成建設は社会資本の整備や自然災害の復旧・復興などに携わる総合建設会社です。

大成建設では、やむを得ない事情で退職する社員が、会社のニーズに合う場合に正社員として復職できるジョブリターン制度を導入しています。

また、仕事と育児を両立するためのセミナー実施にも力を入れており、パートナーと参加できる両立支援セミナー、介護セミナーなどが実施されているのも魅力的なポイントのひとつです。

まとめ

出産・育児、介護などのやむを得ない理由で退職をした社員を再雇用するジョブリターン制度は、企業側にとっても再雇用される側にとっても多くのメリットがあります。人材不足の解消や採用コストの削減など、さまざまな問題の解決のきっかけとなることが期待できるでしょう。

採用する側、採用される側の双方が働きやすい環境を整えるために、ぜひ一度ジョブリターン制度の導入を考えてみてはいかがでしょうか。

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