メンタルヘルス対策とは?企業が取り組むべき対策&効果的な進め方

メンタルヘルス対策

近年では、「メンタルヘルス」という言葉を耳にする機会も増えました。厚生労働省によると、メンタルヘルス不調者が休職・退職している事業所は年々上昇傾向にあるという調査結果もあります。

従業員の心の健康を守り、定職率を上げるためには、企業のメンタルヘルス対策が重要です。

今回は、企業に求められている「メンタルヘルス対策」の必要性やメリットをご紹介します。

メンタルヘルスケアの具体例もまとめているので、参考にしてください。

メンタルヘルス対策とは

「メンタルヘルス」とは、心の健康を意味します。

厚生労働省が令和4年に発表した「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、うつ病といったメンタルヘルスの不調が原因となって休業・退職した従業員がいる事業所は、全体の13.3%という結果でした。

これは令和3年度調査から比べて3.2%の上昇傾向にあります

このように、職場におけるストレスでメンタルヘルスに不調をきたす人が増えている昨今、働く人の心の健康を維持・促進するための対策が求められているのです。

メンタルヘルス対策

画像引用:厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」

メンタルヘルス対策の目的・必要性

メンタルヘルス対策

企業が行うメンタルヘルス対策の目的や必要性について、さらに詳しく見ていきましょう。

従業員の心の健康促進

メンタルヘルスの不調は、従業員の休業や退職につながります。安定した事業を継続するためにも、働くすべての従業員の心の健康を維持していくことが重要です。

また、企業はその事業にかかわる従業員やその家族、地域住民といったステークホルダーとの関係性を良好に保ちながら、社会的責任(CSR)を果たさなくてはいけません。

このCSRを果たすためにも、メンタルヘルス対策で従業員を守る必要があるのです。

生産性やモチベーションの低下防止

うつ病といったメンタルヘルスの不調は、仕事へのモチベーションだけではなく、正常な判断力や思考力、創造力にも影響を及ぼします。

  • 本来その人が持つ業務遂行能力を充分発揮できなくなるうえに、体調不良による遅刻や欠勤も出てきてしまうでしょう。
  • 一度休業になってしまうと長期間休むことになる場合も多く、最悪のケースでは自殺や離職につながる恐れもあります。

そのため、メンタルヘルスに対しての正しい知識を身につけ、不調が生じたとしても適切に対応できるようにするためにも、管理職や人事担当者を中心として会社全体でメンタルヘルス対策に取り込むことが求められているのです。

リスクマネジメント

メンタルヘルスの不調が原因となった注意力・集中力の低下によって、事故やトラブルも起こり得ます。

  • 薬品や食品を扱う工場であれば、ミスによって商品の安全性や消費者の健康にも影響が出る恐れもあるでしょう。
  • 公共交通機関や大型の重機を運転する職種であれば、運転する本人だけではなく、乗客や同僚の命を脅かす可能性まであります。

企業として商品やサービスの品質だけではなく、従業員や顧客の安全性を守るためにも、働く人の心身の健康を労われるようなメンタルヘルス対策が必要になるのです。

メンタルヘルス対策を行う企業のメリット

このように、働く人の心身の健康を守るために不可欠なメンタルヘルス対策ですが、メリットは従業員の健康を維持できるだけはありません。

離職率を減らせる

メンタルヘルスに不調を感じている従業員が多い職場では、離職率が高くなる傾向にあります。

とくに、従業員が早期退職してしまった場合、入社から退社までにかかった給与などの損失があるだけではなく、新しい従業員を採用するためのコストもかさみます。

メンタルヘルス対策を行うと、のような離職に関する損失やコストも削減でき、従業員の定着率アップも期待できるのです。

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ハラスメントによる法的リスクを抑止できる

パワハラや長時間労働が原因となって従業員がメンタルヘルスの不調に陥った場合、労災と認定されると、会社側が多額の賠償金を払わなければいけないというリスクもあります。

メンタルヘルス対策を行うことで、長時間労働やパワハラに気づきやすくなり、法的・金銭的なリスクを減らせるのです。

健康経営としてイメージアップできる

経済産業省では、優良な健康経営を行う企業を可視化する「健康経営優良法人認定制度」を設けています。

健康経営優良法人に認定される要件として、メンタルヘルス対策が盛り込まれています。

健康経営優良法人に認定されると、ワイト企業として自社のブランドイメージが向上するだけではなく、優秀な人材獲得にも期待ができるでしょう。

メンタルヘルス対策における基本的な4つのケア

メンタルヘルス対策

厚生労働省が定めている「~職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」のなかで、メンタルヘルス対策で4つのケアが重要とされています。

参照:厚生労働省 ~職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~

労働者自身が行う「セルフケア」

「セルフケア」は、ストレスチェックなどを活用して、従業員自身がストレスやメンタルヘルスの不調に気づき、適切に対処できるように取り組むためのものです。

ただし、適切に対策するためにはメンタルヘルスに関する正しい基礎知識や情報が必要不可欠です。

厚生労働省が運営する働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」では、企業向けのメンタルヘルス研修用のコンテンツを提供しています。

このような正しい知識が得られる教材を活用しながら、セルフケアに取り組むと良いでしょう。

厚生労働省 こころの耳

管理監督者が行う「ラインによるケア」

管理監督者は部下や従業員との接点も多く、ともに過ごす時間も長いため、メンタルの不調に気づきやすいという立場にあります。

また、不調に気づいたうえで業務量を調整したり産業医との面談を勧めたりといった対処もしやすいため、メンタルヘルス対策のなかでも管理監督者の役割は大切です。

ラインによるケアで重要なポイントは、従業員の「いつもと違う」行動にいち早く気づくことです。

たとえば、今までにはなかった遅刻や無断欠勤が増えたり、今までできていた業務に時間がかかるようになったりした場合、メンタルヘルスに不調をきたしている可能性があります。

「いつもと違う」部下の異変に気づき、対処することがメンタルヘルス対策において重要なのです。

産業医などが行う「事業場内産業保健スタッフなどによるケア」

従業員自身が行う「セルフケア」と上司が行う「ラインによるケア」の効果を充分に発揮するためには、産業医や産業保健師といった医療専門職からの支援が必要不可欠です。

たとえば、産業保健スタッフが仕事している環境を見て、気づいた変化を管理監督者と共有し、環境改善のための助言を行うという役割が考えられます。

また、メンタルヘルス対策に関する研修といった企画を立案・実施するなどの取り組みを行います。

病院などを利用した「事業場外資源によるケア」

病院や産業保健総合支援センターなど、メンタルヘルスケアに関する専門機関やサービスの支援を活用する方法が「事業場外資源によるケア」です。

社内での相談にためらいがある従業員のケアや、社内で抱えている課題を外部機関によって解決したい場合に効果が期待できます。

企業が取り組むべきメンタルヘルス対策3つ

厚生労働省による「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」の資料によると、企業が従業員の心の健康を維持・促進していくためには、3つの段階を円滑に行う必要があるとしています。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

参照:厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」

【一次予防】未然に防止する

  • 一次予防は、従業員のメンタルヘルスが不調になることを未然に防ぐ取り組みです。

セルフケアやラインによるケア、ストレスチェックなどによってストレスに気づき、正しくケアするためには、正しい知識を身につけることが重要です。

教育研修や情報提供によって、メンタルヘルス対策の重要性や、不調になった時に頼れる機関など積極的に情報共有を行うことがポイントになります。

【二次予防】早期発見と適切な措置

  • 二次予防のポイントは、メンタルヘルスに不調をきたした従業員の早期発見・早期対応することです。

たとえば、管理監督者にはセルフケアやラインによるケアで従業員のメンタルヘルスの不調に気づくための視点を伝える、従業員には産業医と面談の機会を設けるといった方法もあります。

そのうえで、従業員自身や部下のメンタルヘルスに不調が疑われる時に、相談できる窓口を周知しておくことも重要です。

【三次予防】職場に復帰しやすくする

  • メンタルヘルスに不調をきたした従業員の回復と働きやすさに配慮するのが三次予防です。

上司や同僚だけではなく、職域にかかわる人ができることを積極的に考え、メンタルヘルス不調者の職場環境や仕事内容、就労条件などに配慮します。

温かく迎える環境を整え、期待する作業を明確にしたり適切に評価をしたりするなど、ホワイトな職場で人間関係を構築できるように心がけましょう。

メンタルヘルス対策を効果的に取り組むためのポイント

メンタルヘルス対策

ここからは、前述したようなメンタルヘルス対策を効果的に進めるポイントをお伝えしていきます。

メンタルヘルスへの取り組みを周知

メンタルヘルス対策に適切に取り組むためには、メンタルヘルスに関する正しい情報や知識を与えるだけではなく、企業としての取り組み自体を従業員に周知することがポイントになります。

経営理念や経営方針のなかでメンタルヘルス対策を明記することで、従業員だけではなく管理監督者や経営層など、それぞれの立場で対策に取り組めるようになります。

個人情報を配慮し特性に寄り添ってサポート

自身のメンタルヘルスの問題について、好んで知ってほしいという人は少ないでしょう。

しかし、心の健康については本人にしか分からない部分もあるうえに、「メンタルヘルス不調」といってもその過程や特性に個人差があります。

そのため、従業員がメンタルヘルス対策に安心して取り組めるよう、心身の健康といった個人情報に配慮しながらも、一人ひとりに寄り添って支援する必要があるのです。

社内で対応が難しければ外部の専門家を活用する

企業によっては、産業医や保健師といった専門職が社内にいないケースもあるでしょう。

その場合、社内だけではメンタルヘルス不調者への対応が難しいため、産業保健総合支援センターなど事業場外資源を活用しましょう。

社外の視点を取り入れることで、他社の事例と比較して自社のメンタルヘルス対策を見直すことも可能です。

メンタルヘルス不調者が出てしまった時の対応

メンタルヘルス対策を行っていて、メンタルヘルス不調者が出た場合どのように対応すればよいのでしょうか。対象者が就労中なのか休職中なのかによって対応は異なります。

就労中に、「いつもと違う」といったメンタルヘルス不調の兆候に気づいたら、その人とゆっくりと話す機会を設け、その人の気持ちに耳を傾けましょう。

そのうえで、プライバシーに配慮しながら、職場でできるサポートを検討してください。

休職中はできることが少ないですが、電話などで休職者の現状を把握することが重要です。休職中であっても会社の一員としてサポートしていくことで、職場復帰につながりやすくなります。

メンタルヘルス対策は義務か?

このように企業に求められているメンタルヘルス対策は、平成26年に改正された労働安全衛生法にも盛り込まれています。

このなかで、メンタルヘルス対策を充実・強化するために、企業は労働者のストレスチェックを行わなければならないとされているのです。

参照:厚生労働省 労働安全衛生法

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まとめ

このように、法律的にも企業においてメンタルヘルス対策が求められています。

メンタルヘルス対策への取り組みは、始めてすぐに効果があらわれるものではありませんが、自社で働く人の心身の健康を守り、生産性を高めていくためにも必要不可欠です。

今回の記事を参考に、メンタルヘルス対策の導入を検討してください。

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