本日は「内定取り消しが違法になるか」ということをテーマにお送りしたいと思います。
例えば採用決定をした後に、さらに優秀な人材が現れたとします。しかし予算的に1名しか採用できない、そんなとき、先の採用者に対して「内定を取り消したい・・・。」と思う人事の方は多いのではないでしょうか?
これはとても安直的な考え方ですが、最近で言えば新型コロナの影響での業績悪化など、やむなく内定を取り消しにしたいと思う場面は少なからずありますよね。
そこで今回は、内定を取り消して違法にならない場合や、法的なリスクなどについて解説をしていきます。
内定取り消しとは
そもそも、内定取り消しとは何なのでしょうか。
その名の通り内定を取り消して、採用の意向を取り下げることです。
「内定」は書類上で正式に行われる効力のある取り交わしになるので、それを取り消すとなると、それ相応の理由が必要になってきます。しかし、内定ではなく「内々定」の段階ならば、こちらは言わば口約束に過ぎずないため、採用の意向を取り下げることは比較的容易に行うことができます。
しかしながら採用者にとっては、気持ち的に入社に向けた準備に入っている場合もあるので、非常に大きなダメージとなるものです。
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内定取り消しは違法?
結論から言うと、不当な理由による内定取り消しは違法となります。
基本的に企業側は、内定を出した時点で労働契約を成立させていることになります。
そのため、内定を不当に取り消すと事実上の不当解雇となり、法律的に罰せられることになるので注意が必要です。つまり、一度内定を出したのであれば、基本的に入社してもらうことが前提となるため、内定を出す際は取り消さない前提で話をすすめるほうが良いでしょう。
内定取り消しが認められるケース
先述では基本的に内定の不当な取り消しは違法だと言いましたが、例外もあり場合によっては内定取り消しが認められます。具体的には、主に以下のようなケースであれば、内定の取り消しが認められるので参考にしてください。
契約の必要条件や必要資格を獲得できなかった場合
例えば入社までにこの資格を取る、このようなスキルを身につけるなど、必須となる条件があるにも関わらず、求職者がそれを満たさない場合は内定を取り消しすることができます。
これはあくまで、前提条件として必須となるスキルを伝えているにも関わらず、入社日までに獲得できなかったとなると求職者側に非があるケースになります。そのため、違法になることはなく、正当な理由で内定を取り消しすることができるケースと言えます。
重度の病気や怪我で就業ができない場合
次が大怪我を追った場合や、治療困難になった場合です。
結論から言うと、上記の場合の内定取り消しは違法にはなりません。本来はフルタイムで勤務することや、一人を採用して売上を計算していたにもかかわらず、その期待に大きくそぐわないほどの病気や怪我を持っている場合は、企業側は内定取り消しをすることができます。
ただし、この場合1つ注意するべきことがあります。それは、予め求職者の健康状態を知っていたかどうかです。もしも知っていて内定を出していれば、内定取り消しはできません。
あくまで、内定を出した後、後発で健康上の問題があり、当初の期待にそぐわない状況になった倍のみ、企業側は内定を取り消すことができます。
経歴詐称や大きな虚偽申告が発覚した場合
内定を出した後に、経歴や実績の詐称があった場合、企業側は内定を取り消すことができます。
小さな詐称や、多少の実績の上乗せであれば内定取り消しはできませんが、合否に関わるほどの大きな詐称であれば、企業は合法的に内定の取り消しが行なえます。まれに中途採用の選考の際、自分をよく見せようとして経歴を詐称する人がいますが、そのうような人に限り内定を取り消すことができるので、覚えておくと良いでしょう。
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業績悪化によりリストラが必要な場合
業績が悪化し、経営不振に陥りリストラを余儀なくされた場合、これから採用予定だった人材に対して内定取り消しを行うことができます。このように人員削減を必要とされるリストラ(=整理解雇)の場合に内定取り消しを行うのであれば、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 解雇手続きの妥当性
内定者が大学を卒業できなかった場合
内定を出した学生が、残念ながら大学を卒業できず留年が決まった場合は、その学生に対して内定取り消しを行うことができます。
企業によっては、内定を取り消さず卒業まで待つところもありますが、多くの企業が、雇用条件や採用条件に「大学を卒業すること」と定めています。企業側は、大学を卒業することを前提に学生に内定を出します。そのため、企業からの条件を満たせない学生に対しては内定を取り消すことができます。
内定取り消しによる法的なリスク
あまり望ましくはないですが、場合によってはどうしても内定取り消しを行わなければならないこともあるでしょう。しかし、内定取り消しの前にはよく考え、リスクを考慮しておかないと様々な法的リスクを背負う可能性があるので注意が必要です。
賠償金の支払い
不当な理由で内定を取り消した場合、企業は損害賠償や賃金相当の金額を支払わなれけばならない可能性があります。
そのため、結果として採用をせず自分の企業で勤務しなかった人材に対しても、比較的高額な金額を支払うことを迫られる場合もあります。過去には不当に内定を取り消された人が裁判を起こし、企業側に転職先が見つかるまで2ヶ月半の給与に加えて、100万円以上の慰謝料を請求し、裁判に勝った実績も存在します。
採用活動への影響
不当な内定取り消しを行い、それが他の応募者まで伝わると、応募者たちは企業に対してマイナスイメージを持ちます。
自分も取り消されるのではないか、ブラック企業なのではないかと不安になり、最終的に母集団の形成が困難になったり、内定辞退率が上がることも考えられます。このように、不当な内定取り消しを行い企業として悪いイメージがつくと、採用活動に直接影響を及ぼしかねません。
社会的な制裁
最悪の場合市場やクライアントなどまで情報が伝わると、社会的な信用を失ったり直接経営に影響を及ぼすケースも避けられません。
特にクライアントなどへ情報が知れ渡り、それが原因で企業としての社会的信用を失い、取引が失注することも珍しくはないので、内定の取り消しをする際は最新の注意が必要です。
内定取り消し企業に対するペナルティ
不当な内定取り消しを行い、それが違法だと判決された場合、企業側には多くのデメリットがあります。特にその中でも、以下に解説をする企業名の公表制度は会社系をする上で非常に大きなデメリットとなるので注意してください。
厚生労働省による企業名公表制度
企業が違法に内定取り消しを行った場合、厚生労働大臣によって企業名が公開される場合があります。
先述で採用活動への影響や、社会的制裁についても解説しましたが、正式に厚生労働大臣によって企業名が公開されてしまうと、採用と経営の両面に今後大きな影響を与えかねません。
また、厚生労働大臣が企業名を公開するためには、以下のいずれかの項目に該当している必要があります。
- 2年度以上連続で不当な内定取り消しがあった場合
- 1年度以内で、10名以上に対して不当な内定取り消しを行った場合
- 事業縮小や整理解雇が認められない場合
- 内定取り消しの対象者へ内定取り消しの理由を説明しなかった場合
他社の内定取り消し事例
実際過去には、いくつかの企業で内定の取り消しが行わた事例があります。そこで、以下に3つの内定取り消しの事例をまとめましたので、参考にしてください。
インフォミックス事件
インフォミックスの事例では、優秀な人材であるAさんが、現在勤務している会社とは別のインフォミックスからスカウトを受けました。
そして、実際に内定を獲得した後、インフォミックスは経営不振に陥りAさんへ出した内定を取り下げています。更にこのとき、すでにAさんは退職を決めており、前職への復帰もできない状況のため、最終的に不当な内定の取り消しとされ、インフォミックス側が違法と判決されました。
オプトエレクトロニクス事件
オプトエレクトロニクスの事例では、すでに内定をもらいAさんは内定予定でした。
しかし転職先の企業であるオプトエレクトロニクスの人事が、Aさんに対する悪い噂を聞いたことを理由に、真相の確認をせず内定を取り消しました。その結果、裁判では違法とみなされ、オプトエレクトロニクスはAさんに対して退職後の未払い給与と慰謝料の合計100万円の支払いを命じられています。
参照元:裁判所 オプトエレクトロニクス事件
大日本印刷事件
こちらは新卒の事例ですが、大学の推薦により大日本印刷から内定をもらったAさんが、大学が決めたルールに反して他社の応募を辞退したところ、大日本印刷から理由もなく内定の取り消しが通達されました。
この場合、明確な説明がなく不当な内定取り消しであるとAさんが裁判を起こし、結果的に最高裁までもつれ込みましたが、Aさん側が裁判で勝利を収める形となりました。
参照元:なるほど労働契約法「大日本印刷事件(採用内定の取消し)」
まとめ
実際に中途採用を進めていと、組織編成の都合上メンバーの構成が変わったりと急な理由で内定を取り消しにしなければならない場合もあるかもしれません。
しかし、内定を出した時点で企業と求職者の間に雇用関係が成立するため、軽々しく内定取り消しをすると違法になります。そのため、現在採用担当をしていて、内定取り消しを考えている人がいたら、ぜひこの記事を参考に、違法にならない理由をしっかりと確立し、内定取り消しまで運ぶようにしてください。
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