労働移動とは?メリットや円滑に進める助成金についても紹介

労働移動

ポストコロナや物価高騰に対応する賃上げのために、円滑な労働移動へと注目が集まっています。しかし、終身雇用や年功序列が根強く残っている日本では、労働移動が円滑に進められておらず、諸外国から遅れをとっており、生産性にも悪影響を及ぼしているとされています。

そこで新しい従業員を採用する際には、生産性向上のためにも、円滑な労働移動に関する知識を身につけておくと良いでしょう。ぜひこの記事を参考にして、採用活動へ役立ててください。

労働移動とは

労働移動

労働移動とは、労働力となる働き手がより良い就業条件や賃金を求めて、異なる業種や企業の間を移動することです。

労働移動は、高い生産性の源泉にもなっており、近年、経済のグローバル化によって、日本国内だけでなく国際的な労働移動も活発になっています。

しかし、産業構造が大きく変化しているにも関わらず、終身雇用が標準となっており労働移動が緩やかな日本は、諸外国と比べて生産性が低い傾向にあるのです。

変化する労働経済

冒頭でも説明したように、労働移動とは、就職や転職、転勤などによって生じる現象です。

「労働移動」というワードと似ている言葉で「流動化」があります。メディアでは「流動化」が頻繁に使用されているため、今回は「労働移動」と併せてこの言葉をキーワードとして、変化する労働経済を見ていきましょう。

「流動化」は、1960年に初めて朝刊の見出しで使われたことで、議論がスタートしています。

1960年代

平均して年に1回程度の頻度で「流動化」が朝刊の連載特集などで登場しました。国民所得倍増計画の達成を目指し、地域間・企業規模別間の労働不均衡を解消することが重要という内容が多く掲載されました。1960年代は、石炭産業の衰退に加え、経済成長をいかに維持するかというテーマで流動化が議論されてきたようです。

1970年代

オイルショックによって高度経済成長が途絶えたために、労働の超過需要がなくなり、流動化の議論が一旦収まりましたが、1980年代の労働者派遣法や男女雇用機会均等法の制定などによって転職者比率が高まり、流動化が推し進められました。

1997年頃から始まった平成金融危機を経て、2002年には過去最高の失業率を記録しました。この時期では、流動化は、労働移動とともにネガティブなものとして議論されることが多かったとされています。

2000年代中期頃

就職氷河期とされる時代で、非正規雇用が流動化の対象とされました。

2010年代以降

比較的安定した経済成長を続ける中、女性の社会進出・高齢者雇用の促進や人手不足によって労働移動がさらに議論されるようになります。

円滑な労働移動とは何を指すのか

望ましい労働移動が行われているかどうかは「勤続年数」「転職率」「入職率・離職率」の3つの指標を元に評価されます。

この指標を元に円滑な労働移動が指す状況を見ていきましょう。

もし、勤続年数が短くなり、転職率と入職率・離職率が上がったとしたら、それは円滑な労働移動が実現したといえるのでしょうか。

いくら勤続年数が短くなり、転職率と入職率・離職率が上がったとしても、社会全体の生産性や個人の満足度が上がらなければ円滑な労働移動が実現したとはいい切れません。

つまり「円滑な労働移動」が実現しているかどうかは、社会においては生産性、個人においては仕事満足度やワークライフバランスを重視して判断する必要があります。

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円滑な労働移動を拒んでいる要因

労働移動

日本は過去20年間、労働移動の水準がほぼ横ばいで推移しています。そこで、円滑な労働移動を拒んでいる3つの要因・課題を見ていきましょう。

  1. 求人に関する情報が不十分であることです。求める人材の情報が不十分であればそもそも労働移動が生じなかったり、労働移動があったとしてもミスマッチが起こったりする恐れがあります。
    また、労働移動が実現するには一定数の求職者が必要です。日本では求職者数が少ないと想定されているため、そのことも円滑な労働移動を拒んでいる要因と言えるでしょう。
  2. 労働者のスキルアップや職業訓練の場が少ないことです。求職者がいたとしてもスキルアップできる場や機会がなければ労働移動は実現しないでしょう。
  3. 年功序列型賃金の制度です。年功序列型賃金の制度が根強く残っている日本では、この制度により勤続年数が長くなる傾向にあり、結果として円滑な労働移動が実現しないとされています。

労働移動が注目されている背景

ここでは、労働移動が注目されている背景について紹介していきましょう。

働き方改革による労働環境の改善

「個人の事情に対応可能な、柔軟で多様な働き方を自分で選べるようにすること」が、働き方改革にある基本原則の考え方です。そのような考え方や国の労働環境改善の動きなどによって、労働移動が注目されています。

転職に対するイメージの変化

定年まで1つの企業に勤める終身雇用の価値観が変化し、仕事とプライベートのバランスや、キャリアアップを目的に転職する方が増加しました。結果的に、これまでマイナスに捉えられがちだった転職に対するイメージが、昨今ではプラスに変わってきています。

ワークスタイルの多様化

デジタルトランスフォーメーションの推進やコロナ禍によって、フルタイム勤務の常識が薄れ、テレワークなどの新しいワークスタイルが登場し、働き方が多様化しています。

働き方が多様化すると、自分らしいワークスタイルを求めて転職する方が増えるでしょう。結果的に労働移動が生じることになります。

労働移動のメリット

労働移動

ここでは、労働移動のメリットを会社側と従業員側に分けてそれぞれ紹介していきます。

会社側のメリット

労働移動が円滑になると、自社で活躍できる即戦力となる人材を確保しやすくなります。また、即戦力となる人材を確保できることは、人材育成のコスト削減にも繋がるでしょう。

さらに、異なる業種や環境で経験を積んだ人材を採用できれば、今まで自社になかった新しいスキルやメソッドを獲得できる可能性があります。

従業員側のメリット

労働移動が活発になると、生涯賃金上昇率や生産性が高くなり、失業率が低くなる傾向にあります。
また、労働移動の活発化により、会社側が他社から遅れを取らないよう自社の労働条件をより魅力のあるものに見直すことで、求職者はより良い労働条件の下で働くことができるようになります。

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労働移動支援助成金とは

労働移動には、その推進に役立てられる助成金が存在します。

労働移動支援助成金とは、企業が労働者に退職勧告をした場合、その労働者の再就職の支援を目的に支給されるもので、転職させる側の企業と、受け入れる側の企業の双方にメリットがあります。

厚生労働省のリーフレットには以下のように明記されています。

事業規模の縮小などに伴い離職を余儀なくされた従業員に対し、再就職の支援や、その受入れを行う事業主に助成金を支給します。転職させる企業(送り出し企業)だけでなく、転職者を受け入れる企業(受入れ企業)にもメリットのある助成金です。離職を余儀なくされた労働者の雇用の安定のために、ぜひ、この助成金をご利用ください。引用:厚生労働省「労働移動支援助成金」

この助成金には2種類のコースがあるので、以下で詳しく見ていきましょう。

労働移動支援助成金 制度概要

画像引用:厚生労働省「労働移動支援助成金」

再就職支援コース

再就職支援コースは、企業が事業の縮小にあたって労働者を解雇する際に、職業紹介事業者へと支援を依頼した場合などに受け取れるものです。労働者を送り出す企業は、再就職支援のための計画を記した計画書を作成する必要があります。

申請条件と助成金額

ここでは再就職支援コースで、労働者を送り出す企業が職業紹介事業者に再就職の支援を依頼し、再就職が実現したときに支払われる助成金について紹介します。その場合の助成金額は以下の通りです。

支給対象者1人あたり以下の金額が支給されます。ただし、1年度1事業所あたり500人を限度とします。

【平成30年4月1日以降の再就職援助計画等の対象者】
(1)再就職の支援を職業紹介事業者に委託する場合
支給対象となる方の再就職を実現させた場合に以下の金額が支給されます。

労働移動支援助成金(再就職支援コース)受給額

(※1)離職から6か月以内(45歳以上は9か月以内)に対象者が雇用保険一般被保険者又は高年齢被保険者として再就職することが必要です。
(※2)次のいずれにも該当する場合、特例区分の対象となります。
ア 申請事業主が、労働者の再就職支援の実施について委託する職業紹介事業者との委託契約において次のいずれにも該当する契約を締結していること。
a 職業紹介事業者に支払う委託料について、委託開始時の支払額が委託料の2分の1未満であること。
b 職業紹介事業者が支給対象者に対して訓練を実施した場合に、その経費の全部又は一部を負担するものであること。
c 委託に係る労働者の再就職が実現した場合の条件として、当該労働者が雇用形態が期間の定めのないもの(パートタイムを除く)であり、かつ、再就職先での賃金が離職時の賃金の8割以上である場合委託料について5%以上を多く支払うこと。
イ 支給対象者の再就職先における雇用形態が、期間の定めのない雇用(パートタイム労働者を除く。)であり、かつ、再就職先での賃金が離職時の賃金の8割以上であること。
(2)求職活動のための休暇を付与する場合
再就職実現時に、当該休暇1日当たり5,000円(中小企業事業主については8,000円)を助成(180日分が上限)します(平成28年4月1日より)。
さらに、支給対象者の離職の日の翌日から起算して1か月以内に再就職が実現した場合、支給対象者1人につき10万円を加算します(平成29年4月1日より)。
(3)離職する労働者の再就職のための訓練を教育訓練施設等に委託して実施する場合 (平成28年10月19日より)
再就職実現時に、訓練実施に係る費用の2/3を助成します。(上限30万円)

※引用元:労働移動支援助成金(再就職支援コース)|厚生労働省

申請方法

再就職支援コースの申請方法は以下の通りです。

労働移動

引用元:労働移動支援助成金ガイドブック|厚生労働省

早期雇入れ支援コース

早期雇入れ支援コースは、退職日の翌日から3ヶ月以内の求職者を雇用した企業に支給されるものです。

申請条件と助成金額

再就職援助計画の対象者である転職者を受け入れた場合と、訓練を実施した場合に助成されます。

※引用元:労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)」のご案内(令和5年4月1日)|厚生労働省

そして、人材育成支援として、早期雇入れ支援の支給対象となる方に職業訓練を実施した場合、下の表の額を上乗せして支給されます。

※引用元:労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)|厚生労働省

申請方法

早期雇入れ支援コースの申請方法は以下の通りです。

労働移動

引用元:労働移動支援助成金ガイドブック|厚生労働省

労働移動を促す「三位一体の改革」

「三位一体の労働市場改革の指針」とは、「経済財政運営と改革の基本方針2023」にて閣議決定された新しい雇用システムの方向性を示すものです。
三位一体の柱となるものは以下の3つです。

  1. リスキングによる労働者のスキルアップ
  2. 格差をなくした職務級の普及
  3. 成長分野への円滑な労働移動

以下でそれぞれを詳しく見ていきましょう。

リスキリングによる労働者のスキルアップ

リスキリングとは、今後新しく発生する業務に対応するために、スキルや知識を習得する取り組みのことです。
業種を問わず様々な科目を学び能力向上を図ることが、労働者の中長期的なキャリア形成に役立つとされています。

民間教育会社のトレーニングや大学の学位授与プログラムなど、Off-JTでの学び直しに重点を置いています。

格差をなくした職務給の普及

同じ職務であるのにも関わらず、日本と外国との企業の間にある賃金格差をなくすことを目的としています。

さらにこの政策では、欧米では主流となっているジョブ型雇用の順次導入も検討されており、2023年内には職務給導入の参考になる事例集をまとめるとしています。

成長分野への円滑な労働移動

自己都合による退職と会社都合による退職とでは、失業給付金を受け取れるタイミングに違いがありました。その違いをなくせるように、失業給付制度の見直しが行われているのです。

また、成長産業へ積極的に労働移動を促せるように、退職金制度も見直しがされています。

一部の企業では、労働者の自己都合で退職する場合、退職金の減額または不支給などといった労働慣行が見られますが、これによって円滑な労働移動が拒まれているとし、改正を行うとしています。

その他の重点事項

以上で紹介した政策以外にも、多様性の尊重と格差の是正に重きを置いているいくつかの重点事項があります。

  • 最低賃金の引上げ
  • 正規雇用労働者・非正規雇用労働者間等の同一労働
  • キャリア教育の充実
  • 中小・小規模企業労働者に対するリスキリングの環境整備

などの施策に取り組むとしています。

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まとめ

労働移動は、昔から長きにわたって議論されてきたテーマです。経済や社会の変化に伴って労働移動はより重要なテーマになりつつあります。

この記事で昨今の経済状況を把握し、労働移動のメリットや推し進められている背景を理解して、労働者にとって働きやすい労働条件の提示やスキルアップ支援を進めていきましょう。

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