近年、採用活動は労働力人口の減少などを理由に困難を極めています。
そのような中で、採用活動の質を向上させ、自社が求める人材へスムーズにアプローチするためには、求職者の視点に立った採用プロセスを設計する必要があります。
そこで注目されているのが『カスタマージャーニー』です。導入することで採用において企業が抱えやすい課題を明確化し、解決への糸口となります。
今回は、採用活動において重要となるカスタマージャーニーの概要をはじめ、導入のメリットや作り方、注意点などについて解説していきます。
採用におけるカスタマージャーニーとは?
そもそもカスタマージャーニーとは、マーケティング業界で使われていた用語です。架空のペルソナ(顧客像)が、自社のサービスや商品を認知して購入するまでの流れを表すことを指します。
マーケティングにおいて、カスタマージャーニーはフレームワークの一つであり、ビジネスを進めるのに重要な枠組みです。
カスタマージャーニーの設定は、企業にとってペルソナの心理や行動プロセスを理解する材料となり、商品やサービスを提供するのに適したタイミングを判断することに繋がります。
採用活動におけるカスタマージャーニーとは、ペルソナを求職者とし、求職者が自社のことを認知してから採用されるまでのプロセスを表したものです。
カスタマージャーニーを導入し、求職者の心理や行動プロセスを理解できれば、その都度状況に合わせた的確な情報提供をすることができます。
カスタマージャーニーを採用活動に導入するメリット
カスタマージャーニーを採用活動に導入すると、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょう。5つのメリットについてまとめました。
企業と求職者のミスマッチを減らせる
まずは、企業と求職者のミスマッチを減らせることが挙げられます。
カスタマージャーニーを作成し、計画に基づいて採用に成功した人材は、企業理解度や満足度が高い傾向にあるでしょう。
そのため、求職者の「思っていた職場環境と違う」や、企業側の「自社の求める人材とは少し異なる」といった採用ミスマッチを防止できるメリットがあります。
さらには、早期離職を防ぐことにも繋がります。
求職者への適切なアプローチが可能になる
求職者への適切なアプローチが可能になるのも、採用活動にカスタマージャーニーを導入するメリットです。
ターゲットとなる求職者を意識した採用方針のため、心理や行動の分析結果により求職者へのアプローチに必要な対策を講じることができます。
カスタマージャーニーの導入は、求職者に対してより効率的で効果的なアプローチをするために重要なポイントといえるでしょう。
採用プロセスの改善ができる
カスタマージャーニーを導入することで、採用プロセスの改善ができることもメリットの一つです。この取り組みは、採用活動において重要な課題や戦略を具体化できそれを可視化できます。
そのため、自社が取り組む採用プログラムをより効率的かつ効果的な内容へと改善してアップデートできるのです。
例えば、企業の採用活動で応募者が減ったり辞退率が増加したりした場合、何が原因なのかをデータに基づいて分析して反映させることで、採用プロセスを改善することに繋がるのです。
採用担当者間で認識を統一できる
採用担当者間で認識を統一できるのもカスタマージャーニーを導入するメリットです。
小規模企業などの場合、採用担当者が一人で採用に関する業務を担うケースは少なくありません。
しかし、複数の採用担当者で稼働している大企業などでは、認識にズレが生じる可能性があります。
そのため、設計したカスタマージャーニーを基に採用活動を行うことで、自社の求めるターゲットにどういったアプローチを実施しているのか明確になり、採用担当者間の認識を統一することに繋がります。
採用コストを削減できる
採用活動においてカスタマージャーニーを取り入れると、求職者の心理や行動に影響を与えているポイントを把握できます。
そのため、実施した施策の効果が薄い場合、見直すための材料となります。
見直しポイントが明確になり、不要な施策を省くことができると、より効率的な採用活動となり、採用コストを削減することにも繋がるのです。
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カスタマージャーニーマップの作り方
企業の採用活動でカスタマージャーニーを活かすために大切なことは、求職者目線に立った施策を設計することです。
以下では、カスタマージャーニーの作り方について、マップとして整理する工程も含め解説します。
目的・ゴールを明確にする
カスタマージャーニーの作成には、採用活動全体の目的・ゴールを明確にする必要があります。
「認知度を高めたい」「自社にエントリーしてもらう」など、目的・ゴールを明確にすることで、収集する情報や施策が変化します。
具体的な目的・ゴールが定まれば、採用活動全体の方向性を決めやすくなるでしょう。
ペルソナ(ターゲット求職者)の設定
目的・ゴールを定めたら、次に行うのがペルソナ(ターゲット求職者)の設定です。
ペルソナとは、ターゲットとなる架空の人物の性別や年齢のほか、ライフスタイルや価値観などを細かく決めることです。
自社の採用活動に関する情報をどのような人材に向けて発信したいのか、具体的な人物像を定めることが大切でしょう。
例えば、営業職などの場合「営業経験5年以上の30代男性で、コミュニケーション力に長けた人物」というようなペルソナを設定することで、企業が求める人材の認識のズレを防止できます。
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情報収集(求職者の行動・心理を分析)
カスタマージャーニーを作るうえで、採用活動に関する情報収集(求職者の行動・心理の分析)は欠かせないポイントの一つです。
近年の採用市場の把握はもちろん、求職者の傾向、自社の採用に関する過去のデータとの照らし合わしなど、採用活動において情報は一つでも多いほうが、より的確なカスタマージャーニーを作成できるでしょう。
なお、すでに企業で働いている人材のなかで、自社が設定したペルソナに近い社員へのインタビューやヒアリングなど、多角的に情報収集することも重要です。
ペルソナの心理や行動プロセスを推測することに繋がります。
求職者の行動プロセスをマップ化する
最後に求職者の行動プロセスをマップ化して整理しましょう。マップ化することで、求職者が採用過程のどの段階でどのような行動をして、何を思い感じているのか一目で分かるようになります。
設定したゴールまでの流れを可視化して、それぞれステップ別に問題や課題、必要な情報を記載したマップを採用担当全体で共有することで、方向性が定まり効率よく採用活動を進めていけます。
なお、抽象的になっていないか、具体性に欠けていないかしっかり確認してマップに落とし込みましょう。
カスタマージャーニーマップを作成する際のポイント
ここでは、カスタマージャーニーマップを作成する際のポイントについて解説します。
求職者の目線で設計する
目標・ゴール、そしてペルソナなどを設定する場面で、常に求職者(ターゲット)の目線に立って設計することが、カスタマージャーニーマップを作成するうえで重要なポイントです。
求職者が採用プロセスのどの段階で、どのような思いを抱き、どのようなことを必要としているのかを深く理解する必要があるでしょう。
求職者の行動や心理に配慮した設計は、採用プロセス全体の質を高めるカギとなります。
カスタマージャーニーマップの内容が、企業の主観ばかりになることがないよう、求職者目線の施策ということを念頭に置いて作成する必要があるでしょう。
最初から完璧を求めず、定期的に見直す
カスタマージャーニーマップを作成するうえで、最初から完璧を求めないことも大切な要素の一つです。
マップ作成のための項目などを設定したあとは、実践と改善を繰り返すことで、カスタマージャーニーマップの質を向上させられます。
また、ブラッシュアップするためには、カスタマージャーニーを作成したら終わりではなく、その時の採用市場などに合わせて定期的に見直すことが重要です。
採用チーム全体で共有し、施策に活かす
カスタマージャーニーマップを作成する際、採用チーム全体で設定した内容を共有し、共通の認識のもと施策に活かすことが、採用活動を効率的に進めるためのポイントです。
カスタマージャーニーを全体で共有しておくことで、採用活動のさまざまな場面で一貫性のある対応を可能にします。
また、効果的にカスタマージャーニーを活用するには、採用チームだけでなく新人研修担当の社員や現場リーダーなど、採用に携わらない社員との共有も大切な要素です。
カスタマージャーニーを活用して解決できる採用課題
ここでは、カスタマージャーニーを活用して解決できる採用課題について解説します。
応募者の離脱防止
カスタマージャーニーを活用して解決できる課題には、応募者の離脱防止が挙げられます。
例えば、企業の採用活動においてエントリーページでの応募者離脱が増えているとします。
「応募フォームが複雑でなかなか先に進めない」「必須項目と任意項目が分かりづらい」といった問題が発生すると、途中で求職者が離脱するリスクが高まってしまいます。
この場合、フォームの簡素化など求職者の負担が軽減される工夫を施すことで、応募者の離脱を防ぐ可能性が高まるでしょう。
ミスマッチの防止
採用活動においてミスマッチは、企業成長を妨げる大きな課題といえます。
求職者の心理や行動プロセスに沿って施策を設計するカスタマージャーニーの活用は、企業と求職者との間で生じやすくなる認識のギャップを軽減し、ミスマッチの防止に繋がります。
採用プロセスの最適化
採用プロセスの最適化は、企業が優秀な人材を獲得するため、企業成長の一環としても重要な役割を果たします。
明確なカスタマージャーニーの活用は、採用プロセス全体の無駄をなくして効率的な採用活動を可能にします。
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カスタマージャーニーマップの成功事例と実践ポイント
最後に、カスタマージャーニーマップを活用した企業の成功事例を3つ紹介します。
スターバックス
スターバックスは、モバイル決済アプリの評価が低いことを課題として挙げ、3つのペルソナに分けてカスタマージャーニーを作成しました。
店舗に来たペルソナがドリンクを飲むまでのプロセスに加え、場面ごとの感情をグラフでマップに表しました。
スターバックスは、モバイル決済アプリの評価が低くなる原因について、ストア・支払い・サインアップで問題を抱えていることを発見します。
そして、決済フローを簡易化するなど、それぞれの課題解決に向けた機能の提案をし、サービスの質向上に繋げています。
日本政府観光局(JNTO)
日本政府観光局は、訪日外国人が日本に訪れてから再来日するまでのカスタマージャーニーを設計しました。
日本の情報発信をするためのメディアを選定するために作成されています。いつ、どういった情報をどのメディアを通して訴求していけばいいのかをまとめています。
結果、ユーザーのニーズに合った情報を発信することができ、アクセス数やリーチ数の獲得に繋がりました。
JCB
JCBは、クレジットカード入会初期の利用者に向けて行うメール施策を検討するために、カスタマージャーニーを導入しました。
利用者が入会しカードを受け取ってからの行動や、どのような情報を求め関心を持つのかを整理し、欠けている要素の洗い出しを行いました。
洗い出しによって完成したカスタマージャーニーを基準に、メールマガジンを送付するタイミングと内容を再検討したことで、70%という高い開封率を達成しています。
まとめ
採用活動におけるカスタマージャーニーは、ペルソナ(求職者)が自社を認知し、採用されるまでのプロセスを表します。
カスタマージャーニーを活用することで、自社の求める人材の心理や行動プロセスを理解することができ、効果的なアプローチが可能になります。
自社の採用活動の質向上のためにも、カスタマージャーニーの導入を検討してみてはいかがでしょう。
企業の採用担当者の中には、優秀な人材を採用したいと活動しながらも思うようにうまくいかず、頭を悩ませている方もいるでしょう。優秀な人材を確保するために、自社へ入社を検討している候補者に対し、企業の魅力を伝える「アトラクト」は欠かせません。 […]