企業を継続させるために人員削減を選択する場面は珍しくありません。しかし、企業が退職させる社員に対して十分なサポートをしなければ、大きなトラブルにつながる可能性があります。
今回は、そんな場面で活用できるアウトプレースメントを解説します。また、アウトプレーメンス事業を扱う会社の例や、導入に際しての注意点もまとめました。
トラブルを防ぎ円満な早期退職を促したいという人事担当の方は、最後までご覧になり業務にお役立てください。
アウトプレースメントとは何か?
アウトプレースメント(Outplacement)は、社員の再就職を企業が支援する取り組みをいいます。
アウトプレースメントサービスとはアメリカで誕生したサービスで、企業の都合により退職する社員が再就職できるよう、カウンセリングや情報提供をメインに支援します。
日本ではアウトプレースメントは人材派遣会社に依頼することが多く、再就職先のマッチングや面接対策などを丁寧にサポートします。
アメリカと比較すると、日本のアウトプレースメントは一層丁寧な再就職支援を提供するといえるでしょう。
アウトプレースメントの目的と背景
次に、アウトプレースメントの目的と、導入する背景について見ていきましょう。
社員の再就職をサポートし、トラブルを未然に防ぐため
企業を存続させるために、人員削減は必要なケースもあります。しかし、社員に十分な説明がなく実行されると、トラブルの要因になりかねません。
最悪の場合は訴訟になるリスクがあるため、退職者へ最大限のケアを行うことで企業はトラブルを防ぐということを目的に、アウトプレースメントを導入します。
企業の社会的責任を果たす施策として
企業の都合によって社員に解雇を通達する場合、何も支援しないというのは無責任であり、世間にもネガティブな印象を与えます。
社員のメンタルヘルスケアやキャリアプランの作成などを支援し、再就職をサポートすることで社会的責任を果たせるといえるでしょう。
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アウトプレースメントは誰が使える?利用条件を解説
アウトプレースメントは企業の都合で退職する社員が使えるサービスですが、利用には条件があります。
続いては、アウトプレースメントを利用する条件について詳しく解説します。
企業側がアウトプレースメント会社と契約していること
前提として、企業がアウトプレースメント会社と契約していなければ、社員は再就職支援サービスを利用できません。
アウトプレースメント契約は社員個人と結ぶわけではなく、企業との間で締結するものだからです。
人事担当者がアウトプレースメントの導入を担当する際は、念頭に置いておく必要があるでしょう。
会社都合での退職で、本人が希望していること
リストラなど、会社都合による退職に限りアウトプレースメントの利用ができます。社員の自己都合による退職では利用できないため、注意が必要です。
また、社員の意思に反して、企業がアウトプレーメンスサービスを強要することはできません。
アウトプレースメントサービスの流れ
ここで、アウトプレースメントサービスがどのような流れで進むのかをお伝えします。
最初の面談・カウンセリング
はじめに、社員に対してアウトプレースメントサービスの内容を説明をします。
社員は具体的な支援内容を理解したうえで、今後のスケジュールを作成する段階です。また、ワークシートによる自己分析をして目標を決定するよう促します。
履歴書・職務経歴書の作成サポート
次は、再就職先の企業へ提出する履歴書を作成するステップです。
社員はキャリアカウンセラーによる指導のもと、適切な書き方が学べるでしょう。
面接・選考のアドバイス
履歴書・職務経歴書の作成同様に、キャリアカウンセラーが面接の指導をします。
面接における振る舞いについても指導があるため、社員は自信を持って選考に挑めるでしょう。また、就職活動中に重要なポイントやテクニックについても指導があります。
企業とのマッチングや紹介
アウトプレースメント会社は、提携する転職エージェントを通じて社員と企業のマッチングも対応します。
紹介先の企業の特徴や求められる人物像などをリサーチし、採用条件の確認や交渉をするのもアウトプレースメント会社の業務のひとつです。
社員は退職手続きから入社準備まで十分なサポートを受けられるため、転職する不安を減らせるでしょう。
再就職後のフォローアップ
アウトプレースメント会社によるサポートは、社員が次の企業に就職した後も継続します。
具体的には、定期的な面談やトラブルに対応する窓口を作るなどの支援です。
新しい職場に慣れるまでに手厚いフォローアップを受けられる点も退職する社員に伝えると、アウトプレースメントのメリットが伝わるでしょう。
アウトプレースメントのメリットは?
ここからは、アウトプレーメントを導入するメリットについて解説します。
円満に早期退職してもらいやすくなる
会社都合による解雇は、社員の生活を脅かすため、トラブルになりかねません。
訴訟のリスクを回避し、円満に離職してもらうために、退職する社員に対する手厚いサポートが重要です。
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労働組合の納得を得やすい
労働者を守る労働組合は、不当なリストラがあった場合に団体交渉権や争議権を行使して会社に対抗できます。
アウトプレースメントを導入していれば、社員の再就職を支援する姿勢を示せるため、労働組合からの理解を得られてトラブルを回避につながるでしょう。
社員への誠実な対応で企業イメージが守られる
経営状況などによりリストラを選択するのはやむを得ないことですが、手厚いサポートがないと世間からの企業のイメージダウンにつながるので注意が必要です。
「経営が悪化している」という評判とともに、無責任な会社だと印象付けかねません。
リストラで退職する社員へのサポートがあれば、企業に対するネガティブなイメージを最低限に抑えられるでしょう。
注意すべきデメリットとリスク
アウトプレースメントサービスを利用すると、企業と社員の双方にメリットがあります。
しかし、注意すべきリスクやデメリットもあるため、人事担当者は事前に確認しておくのが重要です。
費用が高額になりやすい
アウトプレースメントサービスは、費用が高額になりやすいという特徴があります。
社員ひとりにつき50~100万円ほどの費用が発生するため、リストラする人数が多いほど経済的負担が重くのしかかります。
コスト削減のためにリストラという手段を選んだにもかかわらず、アウトプレースメントサービス導入で費用がかかってしまっては元も子もありません。費用対効果をふまえて検討しましょう。
必ずしも再就職が成功するとは限らない
アウトプレースメントは社員の再就職を支援するサービスですが、再就職を確約するものではありません。
社員が希望する条件や応募先への就職を確約するわけではないため注意が必要です。支援できる内容について、社員に充分説明する必要があるでしょう。
社員によっては制度を拒否する場合も
社員によってはアウトプレースメントいうサービスに馴染みがなく、制度の利用を拒否する可能性があります。
また、制度を理解したうえで使用しない判断をする人も珍しくありません。
そのため、コストをかけてアウトプレースメントサービスを導入しても、意味がないという結果になる可能性があります。
導入企業の事例と代表的な提供会社
再就職支援サービスの内容や料金は、アウトプレースメント会社によって異なります。そのため、複数の会社を比較してから利用するサービスを選びましょう。
アウトプレースメントの導入事例
ここで、アウトプレースメントを導入した企業の例をご紹介します。
【運送業A社】
業績悪化が続くA社では、管理職のボーナスカットなどの施策を行ったものの改善がみこめず、希望退職者を募ることにしました。
しかし、早期退職を希望する従業員が現れなかったためアウトプレースメントの導入に踏み切ります。
アウトプレースメントを利用することで退職勧告をする社員の選定基準がわかり、対象者への優遇措置なども決定できました。結果的に、対象の18名が円満退職しました。
【運送業B社】
機械部品を作るB社では、人件費削減の目的で製造コストが安い海外への工場の移設が決定し、90名の希望退職者を募ることを決定します。
その際にアウトプレースメントサービスを利用し、退職する社員の再就職を支援しました。
社員はキャリアアップのための講座やカウンセリングを受け、ほとんどが8か月以内に内定を獲得して退社後のトラブルを防ぎました。
アウトプレースメントの提供会社
ここでは、代表的な会社をご紹介します。
【リクルート】
アウトプレースメント業を行うリクルートの特徴は、20~60代と幅広い層の再就職を支援しています。
サービスを利用した方の82%が6か月以内に再就職していることからも、退職者に対して手厚いサービスを提供できるといえるでしょう。
【パーソル】
一人ひとりの状況に応じたアウトプレースメントサービスを提供するパーソルは、対面とオンラインの両方で再就職を支援します。
さらに、求人開拓部門と有資格者のみを集めたキャリアカウンセラーが手を取り、再就職まで導きます。
【ライトマネジメント(マンパワーグループ)】
ライトマネジメントのアウトプレースメントは、特に40~50代の再就職に強いサービスです。
入念なキャリアコンサルティングにより納得する進路を選択でき、再就職先での定着率が高い点も強みといえるでしょう。
アウトプレースメント会社選びのポイント
アウトプレースメントサービスを依頼する会社を選ぶ際は、以下の点を確認しましょう。
サポート内容が充実している会社を選ぶ
アウトプレースメントサービスの内容は会社によって異なります。
そのため、サポート内容が充実している会社を選ぶようにしましょう。特にリストラの対象になりやすい中高年層へのサポートは、丁寧さが求められます。
数十年ぶりの就職活動でも困らないように、社員を支援してくれるアウトプレースメント会社を選んでください。
費用を確認する
アウトプレースメントサービスの費用についても、必ず確認しましょう。
サービス会社や対象人数によって必要な費用が異なるため、見積もりをとって慎重に検討する必要があります。会社の経営と将来性を考え、導入を検討しましょう。
信頼できる会社を見つける
アウトプレースメント会社の利用者の声や、最新の実績、サービス内容を確認して、信頼できるところに依頼します。
会社のホームページなどを確認し、信頼にあたる企業かどうかチェックしてください。
人事として失敗しないためのチェックリスト
最後に、アウトプレースメント導入において、人事担当者がチェックすべきポイントをまとめました。
導入前に社内で確認すべきこと
社内では、以下の内容を確認しましょう。
- 本当にリストラの必要があるのか検討する
- 福利厚生の見直しや残業の改善で経費削減を図れないか確認する
社員から見て、企業の現状の取り組みや制度に無駄があると感じる場合、単純なリストラによる経費削減策は不信感につながります。
最大限の努力をしてからリストラに踏み切り、アウトプレースメントを導入するか判断することが大切です。
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社員への伝え方・対応方法
アウトプレースメント導入においては、以下の内容を社員に伝えましょう。
- 退職する社員が納得できるようにサービス内容を説明する
- アウトプレースメントを利用したからといって、再就職が確約できるわけではない点を伝える
アウトプレースメントサービスは、あくまでもサポートに過ぎません。そのため、再就職を約束するものではないと伝え、トラブルになるのを防ぎましょう。
上層部への説明で使えるポイント
人事担当者は社内の上層部に対して、アウトプレースメントの導入意義を正確に説明する必要があります。
アウトプレースメントを行う目的は、リストラなどで退職する社員を再就職に導くことです。
企業の社会的責任を果たすことで、退職する社員にも社会にも良好な職場環境をアピールできるでしょう。
アウトプレースメントについて上層部が意義を理解するように説明することは、人事担当者の重要な仕事のひとつといえるでしょう。
まとめ
アウトプレースメントは、退職する社員の再就職を支援するサービスです。会社都合の退職で本人の希望があれば利用でき、再就職先に就職するまでをサポートします。
しかし、費用が高額であるなどのデメリットがあるため、導入すべきかどうかは慎重な判断が求められます。
アウトプレースメントサービスを正しく導入し、社員からの信頼と納得を得ましょう。
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