少子高齢化や人口減少などによって人材獲得競争が激化している昨今、単純に求人媒体を出すだけでは人材の確保が難しい世の中になりました。
欲しい人材を効率的に採用するには、自社の現状を把握し会社の成長に繋げることが大切です。
SWOT分析は自社の強みや弱みを理解し、その後の事業計画や効果的な戦略を策定するフレームワークの一つで、採用促進にも効果を発揮することがわかっています。
この記事では、採用業務向けにSWOT分析の効果ややり方と手順、注意点などをわかりやすく紹介していきます。
SWOT分析とは?
SWOT分析は目標を達成するために、企業の強みと弱みを把握する際に用いられるフレームワークの一つです。
自社の内部環境や外部環境を、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの要素から分析していく方法です。
経営戦略やマーケティングの現場で用いられることが多く、採用現場でも効果を発揮します。
SWOT分析の4つの要素
画像引用:keywordmapACADEMY
強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの要素の意味をそれぞれ解説していきます。
強み(Strength):自社が活かすべき能力
SWOT分析における「強み」は、自社が活かすべき能力や資産、得意分野のことです。
例えば、人材やノウハウ、技術、高いブランド力、優れた企業文化、充実した研修制度などを指します。これら「企業の魅力」は、採用活動においてなくてはならない非常に重要な要素です。
弱み(Weakness):克服するべき課題
「弱み」は、苦手分野や短所、競合他社と比べて劣っている部分を指します。
採用活動における弱みは、採用プロセスの効率性の悪さや知名度の低さ、事業の少なさなどです。これらの弱みを知り、改善に導くことが大切です。
機会(Opportunity):成長のチャンス
「機会」は、技術革新や好景気、需要の高まりなど、自社に良い影響を与える要素です。
これらの要素をうまく活用することで、効率的な採用活動が実現します。
脅威(Threat):回避するべきリスク
「脅威」は、市場環境の悪化や法規制、競合の増加による採用市場の激化など、自社の努力では免れられないリスクのことです。
これらの脅威に対応するための戦略を立てる必要があります。
SWOT分析4つの軸
次に強み・弱み・機会・脅威の4要素を整理するための、内部環境、外部環境、プラス要因、マイナス要因という4つの軸について解説していきます。
内部環境
内部環境とは、自社を取り巻く内部の環境のことです。
自社商品やサービスの価格、品質、資産、ブランド力などのことを指し、「強み」と「弱み」を含みます。
外部環境
外部環境とは、自社を取り巻く外部の環境のことです。
法律や市場のトレンド、景気、顧客ニーズなどのことを指し、「機会」と「脅威」を含みます。
プラス要因
プラス要因は、自社にとってポジティブにはたらく要因のことです。
「強み」と「機会」を含みます。
マイナス要因
マイナス要因は、自社にとってネガティブにはたらく要因のことです。
「弱み」と「脅威」を含みます。
SWOT分析の目的・得られる効果
ここでは、SWOT分析の目的や得られる効果を紹介していきます。
現状の課題や改善点を整理できる
SWOT分析は、自社の弱みや脅威を洗い出すため、現状の課題や改善点が明確になり整理できる点がメリットです。
自社にとってリスクの大きい点やネガティブな点を改善に導くことができるでしょう。反対に弱みだと思っていた部分が強みであることに気づき、差別化につなげられるケースもあります。
競争環境を踏まえた戦略立案が可能
SWOT分析では、内部環境だけでなく、外部環境にも注目します。
法律や市場トレンド、景気、顧客ニーズにも目を向けることで、人材獲得競争の現状を踏まえた効果的な戦略立案が可能になります。
SWOT分析のやり方と手順
ここでは、採用分野におけるSWOT分析のやり方と手順を紹介していきます。
目的を明確に設定する
SWOT分析は、ある目的を達成するために行う1つの手段にすぎません。そのため、採用業務にSWOT分析を活かすなら、まずは明確な目的や目標を設定しましょう。
現場の社員をまとめている管理職や、ターゲット像に近い優秀な社員にヒアリングをし、「自社に必要な人材」、つまり、ターゲットを定めます。
ターゲットを決める際は、年齢や性別、スキル、経験、価値観、人柄、行動特性など、細かい採用ペルソナの設定を行うことで、採用活動で求める人物像の軸がブレることなく、より自社が求める人材を採用しやすくなるでしょう。
「採用活動を行なっても、なかなか求める人材からの応募がない」「採用しても、すぐに会社を辞めてしまう」と頭を抱えている人事担当の方もいるのではないでしょうか。これは、自社の採用ペルソナが定まっていないことが原因かもしれません。 採用ペル[…]
内部環境「強み」「弱み」を分析する
ターゲットが定まったら、採用分野における自社の「強み」と「弱み」を分析しましょう。
「弱み」はすぐに出てくるのに、「強み」はなかなか洗い出しにくいという会社が多い傾向にあります。もし自社の「強み」がわからなければ、応募者の視点に立って考えみましょう。
例えば「なぜ応募者は自社を選んで応募してくれたのか」などの質問を自分に問いかけてみてください。
また、内定者やすでに働いている従業員の意見をアンケートなどで聞き出すのもおすすめです。こうした方法で自社の「強み」がわかる可能性があります。
「弱み」の洗い出しは、「強み」の洗い出しと同じように、応募者や従業員の立場に立って行います。
例えば「立地の悪さ」は移転すれば解決するので「内部環境の弱み」、「少子高齢化」は自社の問題ではないため「外部環境の脅威」に当てはまります。これを区別することが「弱み」を発見するポイントです。
外部環境「機会」と「脅威」を分析する
「強み」と「弱み」を分析したら、外部環境の「機会」と「脅威」を分析しましょう。
会社や事業にとって「機会」はプラスにはたらく要素、「脅威」はマイナスにはたらく要素として捉え分析を行います。
「機会」は、市場の成長や技術の進歩、社会的トレンド、政策や法律などの規制緩和などです。「脅威」は、競合他社の増加、技術の陳腐化、景気後退などを含みます。
「機会」と「脅威」の外部環境を特定するために役立つのは、「3C分析」「PEST分析(ペスト分析)」「5F分析(ファイブフォース分析)」などのフレームワークです。
3C分析
「Company(自社)」「Competitor(競合)」、「Customer(市場・顧客)」の3つの視点から市場を分析し、競合他社のシェアや推移といったマーケティング環境の把握に役立ちます。
PEST分析
「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の観点から分析できるフレームワークです。広い視野で外部環境を分析できます。
5F分析
「業界内の競争」「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手(応募者)の交渉力」「売り手(労働市場)の交渉力」の5つの要素から分析するフレームワークです。主に「脅威」を分析したいときに役に立ちます。
クロスSWOT分析で戦略を導き出す
画像引用:Salesforce
最後に、クロスSWOT分析をして戦略を導き出します。クロスSWOT分析とは、内部環境と外部環境それぞれの要素を交わらせて分析を行うことです。
以下では、「強み×機会」と「弱み×脅威」の2つのパターンについて紹介していきます。
強み×機会:攻める戦略の立案
「強み×機会」は、「攻める戦略の立案」時に役立ちます。自社の「強み」を活かし、「機会(ビジネスチャンス)」を最大限に活かす方法を検討しましょう。
採用分野における「強み×機会」は、「求めるターゲット」に対し、自社の競争優位性をアピールすることです。
例えば、技術や優れた企業文化、充実した研修制度(強み)を、好景気や店舗の拡大(機会)などのときにアピールすることで、他社に負けない採用活動ができるでしょう。
弱み×脅威:回避策を考える
「弱み×脅威」は、「回避策を考える」ときに役立ちます。自社の「弱み」を把握して、「脅威」となるリスクを最小限に抑えるまたは回避する施策を検討しましょう。
例えば、採用プロセスの効率性の悪さや知名度の低さ、事業の少なさ(弱み)と、市場環境の悪化や法規制、競合の増加による採用市場の激化など(脅威)を掛け合わせた状況の場合に、脅威による影響を抑えるためにどのような採用手法を取るべきか、十分に検討する必要があります。
採用業界におけるSWOT分析に役立つフレームワーク
SWOT分析は1960年代頃からある手法のため、やや時代遅れだとする意見もあります。
そのため、SWOT分析に他のフレームワークを組み合わせ、より自社にあった分析のやり方で採用戦略を見直すことが重要です。ここでは、採用業界におけるSWOT分析に役立つフレームワークを紹介しましょう。
PEST分析:採用市場の外部環境を理解する
PEST分析は、自社を取り巻く採用市場の外部環境を様々な視点から分析するのに有効な手法です。
「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」が、自社に与える影響や機会、脅威を特定するために役立ちます。
Economy(経済): 景気動向、賃金水準の変動など
Society(社会): 人事制度トレンド、働き方(テレワークや副業、ライフワークバランスなど)など
Technology(技術): 採用プロセスのデジタル化、ソーシャルメディア採用など
VRIO分析:自社の採用力を深掘りする
VRIO分析(ブリオ分析)とは、「Value(経済価値)」「Rareness(希少性)」「Imitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」の4つの要素から企業の経営資源を分析するフレームワークです。
VRIO分析を行うことで、自社の採用力の強みが明らかになり、市場における競争優位性が可視化されます。
Rarity(希少性): 競合他社と比較して、自社には独自の採用手法や価値があるかを分析するのに役立つ要素。
Imitability(模倣可能性): 競合他社が簡単に模倣できない技術や歴史などがあるかを分析するのに役立つ要素。
Organization(組織): 自社の採用部門のリソースやデータ活用の運用実態などが整っているかを分析するのに役立つ要素。
5F分析:採用市場の競争環境を分析する
「5F分析」は、採用市場における5つの競争要因が、自社に対してどれほどの脅威であり、どれほどの競争優位性があるのかを分析するために行います。
5つの競争要因とは、「業界内の競争」「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手(応募者)の交渉力」「売り手(労働市場)の交渉力」のことです。
業界内の競争
競合他社の数や各社の資金力、技術力、ブランド力、営業力、シェア率などの項目を分析する。
新規参入者の脅威
新しく参入してきた企業が採用市場を奪い、人材獲得競争が激化する脅威のこと。新規参入者の市場規模や成長率などを分析する。
代替品の脅威
他社の採用手法や派遣社員・業務委託といった雇用形態に人材が流れてしまうリスクのこと。代替品の価格やコストパフォーマンスなどを分析する。
買い手(応募者)の交渉力
買い手とは一般的に顧客のことで、採用分野においては応募者のこと。応募者の数や自社の採用プロセスの独自性などを分析することで、優秀な求職者が報酬や採用条件等で強い交渉力を持つ可能性の有無がわかる。
売り手(労働市場)の交渉力
売り手とは一般的に供給元のことで、採用分野においては労働市場のこと。労働市場において求人プラットフォームなどの手数料が上がれば、自社の採用に悪影響が出る。
クロスSWOT分析:採用戦略を具体化する
クロス分析とは、SWOT分析の結果を掛け合わせることで採用戦略を導き出すフレームワークです。特に以下の組み合わせを活用することで、採用戦略の具体化が実現できます。
強み × 機会(SO戦略)
自社の採用ブランド力や認知度により、SNSや採用イベントの活用で応募数を増やす。
弱み × 機会(WO戦略)
スムーズな選考プロセスやペルソナの明確化などにより、優秀な人材を採用できる仕組みを構築する。
強み × 脅威(ST戦略)
他社より先行して最新技術を導入し、採用活動の効率化を推進して競争優位性を確保する。
弱み × 脅威(WT戦略)
採用担当者のスキル強化やスキルを持つ人材の確保などで、求職者ニーズの多様化や競争の激化に対応する。
4C分析:応募者視点での採用プロセスの改善
「4C分析」とは、顧客視点で戦略を策定する方法です。採用分野における4C分析では、応募者の感じ方や視点を基準に、採用プロセスを改善します。
Cost(コスト): 応募・選考にかかる手間や時間など、応募者にとっての懸念点
Communication(コミュニケーション): 応募者が企業とコミュニケーションを取りやすいかどうか
Convenience(利便性):応募確認や面接日の調整、面接や選考にかかるスピード感など、応募プロセスの利便性
4P分析:採用マーケティング視点での戦略策定
4P分析は、マーケティング視点で採用活動を推進し、自社が求める人材を確保するために行います。
Price(価格): 応募者に提示する給与レンジや昇給制度などの条件
Promotion(プロモーション): 求人広告、SNS、説明会など、採用広報の強化
Place(流通): リファラル採用、採用イベント、採用プラットフォームなど、求人情報の提供チャネルの選択
さて、今回のテーマは「採用マーケティング」。最近は耳にする機会も増えたのではないでしょうか。 売り手市場が続き採用が難しくなった昨今では、デジタルツールを活用した採用活動や採用マーケティングという新たな手法が注目されています。 […]
SWOT分析を行う際の注意点
ここでは、SWOT分析を行う際の注意点を紹介していきます。
主観的な分析に偏らないよう、複数人で実施する
見落としや偏った見方で分析しないためにも、複数人で実施するのがおすすめです。
幅広い部門や役職のメンバーを男女問わず集め、多角的な視点で分析すれば、より多くのアイデアが生まれやすくなります。
「強み」と「機会」を混同しない
SWOT分析を行う中で、「強み」と「機会」を混同しやすい傾向にあります。「強み」は社内の能力、「機会」は社外のチャンスであることを頭に入れて分析しましょう。
定期的に見直しを行う
一度決めたフレームワークでも、時代の変化や採用市場の動向に合わせる必要があります。
昨今は外部環境の変化が著しいため、SWOT分析を定期的に行い最新の結果を出すことで、成果につながりやすくなるでしょう。
まとめ
SWOT分析は、競争が激化している採用市場において、優位に立てる戦略の策定に効果的です。SWOT分析によって自社の強みや魅力を見つけられれば、より精度の高い採用ができるでしょう。
急激な変化を遂げる時代だからこそ、SWOT分析によって、環境に応じた採用戦略を策定してください。
企業によって求める人材は変わってきます。時間とコストがかかる採用活動を、効率よく行うために重要なのが採用戦略です。 採用戦略の立て方は企業ごとに異なりますが、しっかり戦略を立てることで、応募が来ない状況や内定辞退・早期離職を予防するこ[…]